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会社のいいなりはもう通じない ―転勤―

おかぼん

 2年前に「転勤は会社のいいなりを甘受すべきか」という題で、労組は正面からこの問題に取り組むべきである、という提起をしたが、会社側はここに来てようやく重い腰を上げる兆しが見て取れる。もっとも、日本経済新聞の記事に「全社員転勤命令なし」と大きく見出しが出るくらいであるから、まだまだ進んだ一部の企業だけであることは否めないが。

 今の日本が何をしようにも足かせになる根本問題に少子高齢化問題があるが、いくら自治体が待機児童を減らしても、子供の医療費を無料化しても、この転勤問題を解決しなければなかなか難しいのではないか。

 転勤族の子育てのメリットとして、家族の絆が強くなる、経験値が高くなって自分が成長する、たくさんの人に出会える、などを挙げる人もいるが、一緒に付いて行くとなれば、もう一方の配偶者(主に女性)は自然と退職ということになるだろうし、それを甘受しても人間関係は一から再構築である。甘受すると言っても、これだけ女性の社会進出が叫ばれている時代に、夫の転勤に帯同するために退職する女性が10万人と聞けば、これはもう無視できない数字であるが。それに加えて子供自身のことも考えれば、ここは単身赴任ということになるのだろうか。

 国勢調査の「世帯主が有配偶男の単独世帯数」は一貫して増え続けている。これは異常な姿ではないだろうか。もちろん、人それぞれに多様な考え方があり、夫婦と子供は一緒に過ごすのが普通である、と押し付けてはいけない。しかし、だからと言ってそう考える人たちの生活を一方的に変更することが簡単に許されるものでもない。

 今回、会社が重い腰を上げたのは労組から強い要求があったからではない。優秀な若い外国人を採用しようとしたとき、転勤があると採用が難しいことに気づいたのである。日本人にしても年功序列や終身雇用の見直しが進む中、転勤だけが従来通りとはいかなくなってきた。本人やその家族の事情を考慮しつつ、話し合いで転勤命令を出すのが普通になる時代は意外と早くやってくるかもしれない。

 ちなみに、会社にとっても1人転勤させるのにかかる費用は100~150万円、転勤者数から単純計算すると産業界全体で6千億~9千億円になるという。費用対効果の観点からも見直す時期に来ていることは間違いない。