月刊ライフビジョン | 家元登場

お正月のカードゲーム

奥井禮喜

トランプ・マジック

 トランプの減税は、10年間で1.5兆ドル、邦貨にして170兆円である。法人実効税率を28%に下げる。かつてレーガンが国債発行して減税をやったが、中身は低福祉と規制緩和が柱で、増大した財政支出は軍事費拡大(第七艦隊の大増強といわゆるスターウォーズ構想)であった。財政支出による財政赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」として内外に騒動をばらまいた。日本に対しては財政赤字の肩代わりとして軍事費膨張を要求したことまで含めて、今回もまったく同じことをやっている。トランプは大統領就任以降、自動車などで日本に対して苦情をぶつけ、武器購入を要求した。アメリカの国防予算は上限の7,000億ドル(78.8兆円)である。従来方式ならば国防基本予算は5,490億ドルだから、桁違いの大盤振る舞いだ。トランプいわく「歴史的レベルで巨大な軍事予算増、アメリカの未来は明るい」のだそうである。

ダウト!

 トランプの二国間貿易主義が拡散しないように各国は身構えている。なぜアメリカの経常収支が赤字か? 輸出企業は、なんと全体の1%である。多くのメーカーは投資不足で、工場・設備の老朽化が著しい。海外収益が本国へ還流すると、企業は自社株を購入し、配当金を支払うという調子である。もちろん大企業と中小企業の格差が著しい。要するに、相手国が不正をやっているから貿易赤字になるのではなくて、問題はアメリカ自身の経済構造にある。今回の減税策なるもので、誰が潤うことになるのかはすでに明確である。超大企業や超高額所得者がさらに利得を増やすのは疑いない。大儲けする企業があっても、それによって社会全体が潤わないのはとっくに現実が証明している。トリクル・ダウン=オコボレ式で、政府が大企業などを支援すれば結果的に中小企業や福祉に役立つというのは傲慢にして、典型的な嘘つき経済学である。これをトランプと共和党は自画自賛する。

神経衰弱

 いま世界のGDPはざっと80兆ドルあるらしい。2018年の世界GDPは年率3.5%程度が予測されるが、さまざまの機関の予測は、いずれも世界的にさらなる所得格差が拡大するという。アメリカがその先頭を行くのもまた疑いない。資本主義を自由放任に放置すれば経済社会が混乱する。「レッセ・フェール」(なすに任せよ)は、18世紀の経済学者グールネーら重農主義者が掲げた言葉であるが、体験的理論的にとっくに葬り去られたはずである。それが企業主体の自由放任どころか、国民大衆から集めた税金を意図的に経済的強者のさらなる強化のために投入するのだから、低所得者どころか中間といわれた層もますます貧困化へ拍車がかかる。社会福祉制度は不完全であっても、自由放任の資本主義に対して統御・掣肘を加えるものであるが、トランプは貧弱な福祉からも投入資金を巻き上げようとしている。アメリカの経済的混乱はますます深化する懸念が高い。

ババ抜き

 トランプとアメリカの悪辣性において見事な経済戦略を中心に指摘したけれども、これはどうも目下の世界的傾向だというべきである。社会保障が低下すると、当然ながら第一に低所得者階層が困難になる。しかし、資本主義社会においては、社会における政治的発言力は、所得の大きさに比例するといえる。たとえば日本でも株高傾向であれば政権は安定するが、日々のささやかな生活の維持・向上を願う人々は株高で喜ぶ層ではない。円安→ 大企業収益向上→ 株高のサイクルは万能ではない。円高で消費物資が安くなるほうが低所得層にはありがたい。生活を支える輸入資源を考えればなおさらだ。かくして生活が厳しい層ほど政治に期待できないから政治的無関心を強めるといえる。これを逆にいえば、政治的無関心が増えるほど政治は従来の金権体質を強めていく。世界的に悪しき資本主義が幅を効かせる流れを変えねばならない。社会はこのままでは絶対に明るくならない。


奥井禮喜
有限会社ライフビジョン代表取締役 経営労働評論家、OnLineJournalライフビジョン発行人