月刊ライフビジョン | 家元登場

2020東京五輪のおもひで

奥井禮喜

ただ長かっただけのひと

 評論家の田原氏によると、昨年2度目の辞任前に安倍氏は、第三次世界大戦に備えて国防を進めてきたが、その相手はコロナウイルスであったと語ったそうだ。安倍氏が唐突に辞任表明したのは8月28日である。23日が佐藤栄作政権を超えて首相在任2,799日最長政権記録達成であったが、「政権の運営に不安広がる」(8/23毎日社説)、「ただ長かった・手柄なし・公約先延ばし型」(8/24朝日)。コロナ対策と経済不安が焦点で、「幻の戦後最長景気 判断の誤り認めるべきだ」(8/27毎日社説)、「コロナ乗り越え経済再生図れ」(8/25読売社説)などの主張が出されていた。辞任表明後は、「安倍政治の弊害清算の時」(8/29朝日社説)、「行き詰った末の幕引き」(同毎日社説)、「危機対処へ政治空白を避けよ」(同読売社説)で、読売は「政権の功績は大きい」と書いたが、世間は、長期政権のおごり、傷つけられた民主主義、コロナの行き詰まりという見方が多かった。

コロナを盛り上げてくれたひと

 昨年8月7日が第2波のピークで感染者増加1,607人であった。9月16日に菅内閣が発足した。「安倍政治の焼き直しはご免だ」(9/17朝日社説)、「まず強引な手法の転換を」(同毎日社説)、「経済復活へ困難な課題に挑め」(同読売社説)と並んだ。直後の意識調査で内閣支持率は65%(朝日)、もちろんご祝儀と期待の域を出ないが、安倍政権の番頭か参謀かはともかく、安倍政権の功罪(とくに罪)に対していかにも甘い(と筆者は見た)。だれでもコロナ対策と経済が課題だと考える。ここで戦略的手腕が問われる。コロナで経済はジリ貧傾向であるから、菅内閣は早々に戦略的ミスを犯した。GoToキャンペーンの大盤振る舞いである。関連業界の気持ちもわかる。経済をなんとか盛り立てたいという焦りもわかる。しかし、すべての原因はコロナであるから、まずコロナ感染拡大防止対策に知恵を絞りたい。21年1月8日には、第3波感染者増ピーク 7,958人を記録した。

政権運営一本鎗で戦ったひと

 5月8日は第4波感染者増ピーク 7,232人、そして五輪延期・中止論、無観客論など、世論が高まった。しかし、菅氏は「安心安全」を繰り返すのみであるから、内閣支持率は下がり続け、30%台に落ちる。都議選で自民党復調の期待も頓挫。菅戦略が、安倍残り任期の継投にあらず、自前菅政権構築にあるのはだれにもわかる。解散総選挙を最大の柱としているから、コロナ対策に邪念が入る。感染症対策は初動がもっとも大事だが、安倍・菅内閣と続いて、初動対策はみごとに失敗、態勢立て直しに失敗を重ねているのは、なにがなんでも政権運営すればよいという二流の役者的精神である。世間の人々は政治家に対して忍耐強く、寛大である。もちろん、相手の程度がわかっているから、たびたび発する緊急事態宣言への付き合い方も手練れてきた。報道は行政と市民が認識共有していないと見るが、そうではない。この行政にしてこの市民あり、以心伝心なのである。

さて、オリーブの冠は誰に!

 緊急事態宣言は、最後の決意、背水の構えという決死の言葉で飾るが、4回も5回も緊急事態宣言をやるのでは緊急ではない。大東亜戦争を1941年12月月8日に開始した。人々はこの分なら早々決着かと期待したが、そうはいかない。1年後の開戦記念日に、政府は「連続決戦」なる言葉を編み出した。緊急事態宣言に代えて、先人の知恵を活用し、緊急事態宣言も「連続決戦宣言」とするべきだろう。首相東条英機は意外にも人々の評判がよかった。せっせと町へ出ては、サービス精神旺盛に歓談し、演説したからである。菅氏は戦争中のことは知らぬと語ったが、先輩を見習うのも1つの方法だろう。なお、当時戦争指導部は、つねに国民の戦意が低いとしてぶつぶつ文句を重ねていたが、これは大きな間違い。指導部が考えている程度のことは人々は重々承知している。戦果が上がらないことを人々一般に押し付けることだけは絶対やってはならない。老婆心ながら。


奥井禮喜 有限会社ライフビジョン代表取締役 経営労働評論家、OnLineJournalライフビジョン発行人