月刊ライフビジョン | 家元登場

パズルの解き方-COVID19

奥井禮喜
出口を探そう

 ウイルス対策について整理してみる。社会は、A・すでに感染している人と、B・そうでない人が混在している。現段階では、圧倒的にB>Aである。▲感染しても無症状の人もいるし、そのまま時間が経過すれば陰性に変わる人がいる。感染して一定期間経過すれば発症する人の場合は、その時点で感染がわかる。そこで、感染して発症するまでの期間をどの程度にみるべきか。目下の医学的知見では確定できではないが、とりあえず、2週間程度と仮定する。▲感染は、人と人との間で発生する。A同士であればすでに感染している同士だから感染は発生しない。また、B同士でも感染しない。つまり、感染はAとBとの間に発生する。感染はA→Bへの転移だから、AB両者の接触関係を遮断すれば、感染は防げる。問題は誰がAで、どなたがBであるかわからない。▲そこで社会生活を維持するために、全員が一定期間お互いに遮断する行動をとらねばならない。

誤謬の発生

 理屈では、社会的遮断を開始してから、仮定した2週間を経過すれば、ABがはっきりするはずである。▲問題は、すべての社会的活動を停止できない。すでに現代人は社会においてしか生きられない。たまたま自給自足できるような人であれば、社会的関係を遮断しても生活を維持できるが、ほとんどの人々はそれができない。つまり、社会生活を維持するために必要十分な経済活動をしなければならない。必要十分な経済活動とは、人々が生活するための需要に見合って供給が成立することである。▲最初は、トイレットペーパーやマスク、消毒液などを購入するための争奪戦が開始し、都知事発言後は保存可能な食料品の買い占めが発生した。これは要するに、日常的な生活を維持するに足る経済活動に齟齬が起こるのではないかと、人々が予測したからである。これは非人為的災難において、人為的に災難を新たに生み出したのであって、日本人の公徳心の脆弱さを出現させた。

デバグの開始

 ウイルス自体は、社会を病気にするものではなく、人間の個体を病気にするのである。人が病気になった場合、頼りにするのは医療活動である。医療活動は、すべての福祉活動と同じで、経済活動が弱体であれば十分なものにはならない。▲ウイルスによって爆発的感染が一挙に始まれば、多少の先進国、福祉国家といえども、医療現場の対応が破壊されかねない。ウイルスを根絶するなど夢想にすぎない。なんとかして、防戦に努める。いわば守りの野球と同じ発想である。手持ちの陣容で相手側の攻勢に耐える。これはたとえ話にすぎないけれども、専門家としてもこれ以上の知恵は出ないであろう。▲早期発見・早期治療は医療の常道であるが、検査体制の不備、疾病した場合の治療の決め球がなく、世界中でワクチン開発や医療の研究に、関係者が奔走しているのは、直接現場を見なくても理解できる。医療体制の確立にも薬の開発にも時間が必要である。

連帯の呼びかけ

 ここまでの国内のウイルス対策において、医療が大きな力を持っていないことがわかった。そこで社会全体として、感染の爆発を防ぎ、時間をいかに効果的に稼ぐか――これこそ1人ひとりが直面している課題だ。▲社会的人為的混乱を防ぐためには、政治的力量が問われる。小さなことだと考えるかもしれないが、人々に行動を呼びかける政治家は、懇切丁寧に、人々が納得を深めるように働きかけねばならない。たとえば政府要人の記者会見が半分腰を引いたような素振りでは不信感を招くのみである。▲人為的災害を拡大しないで、人々が持てる力を万全に駆使できるように、政治家は、上から号令をかければ全てよしというような考え方を捨てるべし。▲社会を維持するとは、1人ひとりが目的意識的にウイルス防戦の生活を構築することである。1人ひとりの生活を守ろうとする意志が社会を作っている全員で共有されねばならない。あえて課題整理のために一文を書いた。


奥井禮喜
有限会社ライフビジョン代表取締役 経営労働評論家、OnLineJournalライフビジョン発行人