月刊ライフビジョン | 地域を生きる

市民参加という名の詐術

薗田碩哉

 近年はどこの町に行っても「まちづくり」に関わる討論会やシンポジウムやワークショップなる行事が活発に行われている。ゴミ問題から子育て、防災や地域の安全、教育問題から高齢者の支援に至るまで、町の抱えるさまざまな課題をみんなで考え、解決の道を探りましょう、というのがその趣旨である。それは大きな枠組みで言えば、市政の諸問題について市民とともに考え、政策を決めていきます、という「市民参加」の仕組みを追求しているということになる。

 この欄で問題にしてきた、わが住む町田市鶴川地区のこじんまりした図書館の存廃問題についても、お決まりの図書館問題のワークショップが昨年5月に行なわれている。実はその時点ですでに博物館の廃止や図書館の縮減を盛り込んだ公共施設再編計画の骨子が出来上がっていた。図書館についての論議は、市当局の目論見では、再編(縮小)を前提に、ならばどうやって図書館サービスの低下を抑えるかというところに焦点を置いて、市民の知恵を調達しようとしたかったはずである。

 ここに、第1の詐術がある。本来なら公共施設の削減が、ほんとに必要なのか、必要だとしてもどこからどう手をつけるべきか、といういちばん根本のところで市民との徹底した協議を行なうのが筋である。市民こそ主権者なのだから、市民参加を本気で考えるなら、土台のところで主権者の合意をきちんと作らなければ、市民が納得するはずはない。削減するという方針を先に決めておいて、ではそのやり方はどうしましょうか、というところだけ市民参加を求めるのは本末転倒、ご都合主義型市民参加に過ぎない。

 ともあれ「鶴川地域の図書館のこれから」と題したワークショップが開かれ、筆者も申し込んで参加した。行って見るとかなりの人数が集まっていて、当然、参加した市民は図書館を大切に考えていて、何とか続けてほしいと願っている人たちばかりである。冒頭、再編計画の説明がちょこっとあったものの、いくつかのグループに分かれて行なわれたワークショップは、今の図書館がどんな問題を抱えているか、どうしたらそれが改善できるかという前向きの議論に終始し、廃止の話などこれっぽっちも出なかった。参加者は、これで図書館の存続が決まるとは思わなかったものの、何らかの妥協なり改善が提示されるかと思っていた。

 それは見事に(予定通り)裏切られた。参加者が要求したワークショップの結果報告は届かず(ずっと後になってごく簡単なペーパーは来たが)、その論議の片鱗も生かされないまま、廃止計画は粛々と実行段階に上げられていき、しかも、この問題についてワークショップを開いて「市民の意見を十分に聞きました」という実績にされてしまった。ここに第2の、許しがたい詐術がある。市民との協議というのは、それによって行政の方針を再検討するというのではさらさらなく、市民とも協議はしましたという単なるアリバイ作りでしかないというのが実態なのある。

 議会の無力も問題にしなければならない。市民代表としての議員が問題点を把握して、市民にもその周知を図って十分な議論をしていればまだしも、公共施設の再編について議会は事前に何の論議もしていない。こうした重要問題は議会の議決事項に入れるのが当然と思っていたら、「市民自治条例」のない町田市では、市の計画は何によらず、市長の市政報告ですべてOKなのだと聞いて心底驚いた。議員はそれについての質問は出来るが、方針を覆すことはできない。せいぜい予算案を否決して抵抗するぐらいのところだという。

 議員さん方は、市民参加に対して必ずしも熱心ではないようだ。自分たちこそが市民の代表であるのだから、それ以外の市民に勝手にものを言ってもらっては困る、自分たちが取り次ぐ、ということなのだろうが、図書館一つ守れない議会では存在理由が問われる。議員はもっと市民の参加を促して、共に首長権力に立ち向かわなければ、高額の歳費をいただいている意味がないではないか。

 図書館を守りたければ市長を替えるしかない。口先だけでなく、本当に市民の立場に立って詐術を弄せず、市民とともに市政の運営を行なっていくような市長を選ぶ―それが唯一の道である。それをどうやったら現実のものにできるのか。体裁を繕うためではない、花も実もあるホンモノのワークショップを企画して、市民の知恵と力を集めたいと切実に思うこの頃である。


《地域の音楽フェス》

 筆者の地域活動の拠点である「さんさんくらぶ」は、毎年、持ち寄り音楽会を開いて交流を深めている。今年の目玉はくらぶのメンバーの一人が主宰する二胡グループの演奏。一種妖しい中国の調べを楽しみ、アジアの平和を祈ったことだった。          《地域に生きる54》

薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。