月刊ライフビジョン | 地域を生きる

小さな町の図書館戦争―2

薗田碩哉

 郊外の大団地、その真ん中にある地域の商店街のいちばん端に可愛らしい図書館があって、前号で紹介したように、子どもたちや親子連れ、高齢者の憩いと交流の場であり学習の場にもなっていた。町田市鶴川団地にある鶴川図書館である。ところが町田市はこれから予測される人口減や財政規模の縮小を理由に「公共施設再編計画」なる方針を打ち出し、図書館や博物館などの「あり方の見直し」を掲げて、その廃止や再編・集約、民間委託などを進めようとしている。鶴川図書館は真っ先にその標的にされ、団地からバスに乗っても10分はかかる鶴川駅前に図書館を含む総合文化ホールを作ったことを理由に、団地内の図書館を廃止することを決めようとした。

 もちろん市民は黙ってはいない。鶴川地域の住民を中心に6000筆近い署名を集めて、市議会に対して鶴川図書館の存続を求める請願を2017年9月に提出、全会一致で採択された。ところが市はそれこそ「洟も引っかけない」対応、翌18年6月には鶴川図書館を駅前図書館に集約する計画を策定し、その後、生涯学習審議会に諮問し、12月までのわずか3回の審議で強引に答申をまとめさせた。答申では再編計画そのものは否定しない(できない)ものの、市として市民への説明を十分に尽くすよう求めている。

 公共施設再編問題を市民サイドから考えようとして活動してきた市民団体「まちだ未来の会(不肖私が代表)」は「図書館のあり方見直し(案)」に関する疑問点を6点に絞って教育委員会宛に公開質問状を提出した。18年暮れのことである。また、町田市立図書館協議会も図書館長あてに意見書を提出したが、結局意見が反映されることはなく、今年2月には教育委員会が見直し案を最終決定した。直ちに、地元町内会が中心となって鶴川図書館存続を求める「要望書」を4234筆の賛同署名と共に市長に直接手渡そうとしたが、市長は逃げに回ってやむなく副市長に手渡した。それも署名簿の束を前にロクに話も聞かず、忙しいからとすぐに引っ込んでしまった。

 こうなればもう直接行動しかない。改めて地域の人たちに現況を説明し、図書館を守ることの意味を確認し、何らかの行動を起こす必要を訴える。仲間を拡げて地域のもろもろの組織や市会から国会までの議員や地域のマスコミなどなどに働きかける。徒党を組んで市役所に押しかける。幟を立てて目抜き通りでデモを敢行する…。まあ、いろいろ手はありそうだ。

 図書館を守る運動の担い手として団地の自治会長さんや事務局さんを共同代表に「鶴川図書館大好きの会」を立ち上げ、手始めに毎年6月に行われるバザーに出店することにした。図書館に向き合う広場にテント1張りを建て、本に因んで古本屋「未来堂」を開業した。「We Love(ハートマーク)鶴川図書館」の幟を立て、あちこちからかき集めた本や絵本を並べた。本の横には鶴川図書館廃止問題の現状を書いたチラシや資料を用意し、廃止反対の署名を集めた。もう一つ、「図書館クイズ」というのを作って、すぐ目の前にある図書館に行かないと解けない問題を書いた用紙を配った。たとえばこんな問題である。

―――――――――― 質問(しつもん) ――――――――――

 児童(じどう)コーナー(こーなー)閲覧席(えつらんせき)(子(こ)どもが本(ほん)を読(よ)む席(せき))のゆかは何色(なにいろ)? 

 下(した)の3つの中(なか)からえらんで、○をつけてください。

 ①あか  ②みどり ③きいろ

 これは小さい子ども用だが、中高生や大人向きの問題も用意した。正しい答えを書いて持って来るとお菓子やお土産がもらえるという趣向である。子どもたちは喜んで図書館へ押しかけ、時ならぬ図書館デイが出現した。

 署名してくれた多くの人たちに聞かれたのは「請願が通ったんじゃなかったですか?」だった。市議会の全会派が賛成して請願が採択されたことは皆よく知っていたのだが、それが何の効力もないとはだれも思わない。請願可決だから当然存続するものと理解していた人が多かった。請願という仕組みが単なる「ガス抜き」にされている実態が見えてくる。市は請願をどう受け止めてどういう検討をしたのかという説明さえしようとしない。その後の市議会でも請願への対応について糺してくれたのは共産党だけだった。(以下つづく)

《地域に生きる52》 署名する人が続々。テントの後の本棚にも本が並んでいる。右手の爺さんが筆者。


 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。