月刊ライフビジョン | 地域を生きる

小さな町の図書館戦争―1

薗田碩哉

 わが住む町田市小野路の里山から南東へ4キロほど進むと鶴川団地に行き当たる。1967年に最初の一角が完成した団地の草分けの一つであり、戸数3千戸の大団地だが、その真ん中に鶴川商店街がある。楕円形の大きな広場を囲んでスーパーマーケットと20軒ばかりの商店が軒を並べ、近隣の商店街が衰退の一途をたどる中で、まずまずの賑わいを維持している。そしてその一角にわれらの町田市立鶴川図書館が鎮座している。

 商店街のど真ん中にある公共図書館というのはかなり珍しいのではなかろうか。隣りは郵便局だが、そのまた隣りは洋菓子屋、蕎麦屋、寿司屋が軒を並べ、その先の「まさるや」という酒舗は、全国の地酒や本格焼酎を商い、遠方からもファンがやってくる有名店である。向かい側には「プラスハート・カフェ劇場」という名の喫茶店があり、ランチの後はアルコールタイムで、向かいの肉屋さんが午後3時から始めるヤキトリなら持ち込みOK、劇場の名に違わず、時にはライブのコンサートもある。そのほか、米屋にベーカリー、靴屋、蒲団屋、美容院に理容室、インテリア、薬とクリーニング、PC教室から鍼灸院、介護相談の事務所まで、暮らしに関わるモノとサービスはたいてい賄える商店街だ。植え込みもある中の広場には、子どもの遊具やゆったりしたベンチもあって、親子づれや暇なおじさんがたむろしている。

 図書館はこの商店街の必須のアイテムである。10時の開館を待ちかねて、もう何人かの高齢者が玄関先を行ったり来たりしている。開館一番乗りのおじさんたちは、まずは新聞を広げる。きょうび新聞代はバカにならない出費だし、現役時代みたいに何紙も取るなんていう贅沢は及びも付かない。図書館に来ればスポーツ紙も揃っているし、読売だろうが朝日だろうが、気に入った新聞を心行くまで眺めていられる。週刊誌も文芸雑誌も話題の本もより取り見取りだ。こんな気楽な場所は他にない。蒲団

 子どもたちも母親たちも図書館は大好きだ。子どもに読み聞かせたい絵本は古典的なのから新作までずらりとそろっている。今日はどれを借りていきましょうか、子どもと相談して選んでいるママさんがいる。昼を過ぎれば子どもたちも次々やってくる。マンガも少年少女向きの読み物も、参考図書も揃っている。子どものコーナーに座り込んで本に見入る子もいるし、宿題の調べ物を図書館員と相談している子もいる。子どもの本と言っても昨今はあらゆるテーマを網羅していて、天文学から考古学、歴史や地理、世の中の仕組みについてなどなど、実に多彩なジャンルの本がある。将来の職業案内なんて言うのもあって、その中の『人を楽しませる仕事の本』というのを覗いてみたら、お笑い芸人、手品師、サーカスの団員という3つの職種について、それがどんな仕事であり、どういう修行をすればなれるのかが詳しく書いてあった。大人が読んでも十分に面白い。

 商店会長さんに言わせれば、商店街にとって図書館は欠かせない存在で、商店街のへそのようなものだという。ところが子どもから高齢者まで、鶴川団地とその周辺の人にとって水と空気に次いで必需品である図書館を、市は何の前触れもなく廃止する計画を打ち出した。まさに青天の霹靂である。(つづく)


《地域に生きる51》《鶴川図書館の入り口》

 商店2軒分を使った図書館。他のお店と同じ構えだから、敷居は高くない。ふらりと入って本や雑誌を楽しめる。

 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。