月刊ライフビジョン | 社労士の目から

認知症予防とフレイル

石山浩一

 5月16日、政府が認知症の数値目標を発表しました。厚労省の発表によると65歳以上の認知症の人は15年時点で約520万人、人口の約16%といわれています。それが6年後の25年には約700万人となって約20%に達するとの予測です。人生100年時代を自立した生活で迎えるのか、それとも家族等の援助が必要な認知症で迎えるのか、明日は我が身…、いや今日は我が身の問題といえます。

“70歳代の認知症割合を6%減少”

 政府が有識者会議に示した方針は、団塊世代が全員75歳以上となる25年までの6年間に70歳代の割合を6%減少させることとしています。その結果、認知症の割合を70歳~74歳が3.6%から3.4%に、75歳~79歳が10.4%から9.8%が数値目標となっています。そのために掲げた主な施策は下記の通りです。

  • 運動不足解消や社会参加につながる「通いの場」の拡充
  • 保健師や栄養管理士による健康相談
  • 予防の取り組み事例集やガイドラインを作成
  • 予防に関するエビデンス(科学的根拠)を整理した活動の手引を作成
  • 認知機能の低下を抑える機器・サービスの評価手法づくり

 これらを通じて70歳代の認知症の割合6%減少の目標を達成するとしています。

 15年に策定された認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)は認知症になった人への対処療法と認知症の人が安心して暮らせる共生社会が中心となっていました。しかし、今回の施策は予防が中心となっています。認知症にはアルツハイマー型、レビー小体型、認知症をともなうパーキンソン病、前頭側頭型などがあるようですが、治療法も多種多様となっています。かつては老人ボケと言われ、年をとれば仕方がないと思われていた症状ですが、高齢化の進展に伴って社会的問題となってきました。病気全般にいえることですが、なりたくて病気になる人はいません。認知症になってしまった人の対処療法同様に、今回の予防施策を実行することが大事といえます。

フレイル対応で上手に老いる

 フレイル(虚弱)とは、健常な状態と要介護状態(日常生活でサポートが必要な状態)の中間の状態として日本老年学会が2014年に提唱しました。多くの高齢者は健常な状態から、筋力が衰える「サルコペニア」という状態を経て、さらに生活機能が全般に衰える「フレイル」となり、要介護状態に至るのが一般的です。しかし、フレイルは適切な介入により、様々な機能を可逆的に戻せる状態像であるとされています。認知症が社会に与える影響は大きなものがありますが、その筆頭が医療費であり、さらに介護費用があります。また家庭においても老・老介護や介護離職等の問題もあります。認知症の前のフレイル状態にならないように取り組んでいるのが東京大学高齢社会総合研究機構の飯島教授です。

 フレイル予防には定年退職後の日々の生活が重要になっています。朝起きて朝食を食べて新聞を読んで、テレビを見ているうちに昼食となり、昼寝をしてテレビを見るか本を読む。「食事ですよ」の声で夕食を食べて1日が過ぎる。そうした生活が加齢による心身の衰えを加速させてフレイル状態になると考えられます。フレイル状態にならないために飯島教授が力をいれている3つの柱があります。

  • 栄養(食・口腔機能)です。たんぱく質と水分をとり、バランスよく食べること。さらに「かむ力」維持のために定期的な歯科受診が必要です。
  • 身体活動(動く)です。階段を使うことやひと駅前から歩いて帰るなどして、多く歩くことを心掛けることです。
  • 社会参加(趣味活動、ボランティア、就労、地域デビュー)です。外出の頻度と時間を増やすことや家族以外とのおしゃべりを心掛けることです。

 政府の施策をより具体的な内容となっています。

フレイルには可逆性がある

 昨年春に山口県周防大島町で行方不明になった2歳の子供を、大分県からボランティア活動に来ていた尾畑春夫さん(78歳)が発見してスーパーボランティアとして話題になりました。年齢=認知症ではありません。現在でも65歳以上の約84%は普通の生活をしているのです。NHKののど自慢には90歳を超えた参加者が出て元気に歌っています。前述の3つの柱は健康長寿の柱でもあります。仮にフレイル状態になっても3つの柱を実行すれば健康寿命に戻すことが可能です。政府が掲げた認知症割合の減少施策と、飯島教授たちが掲げる3つの柱には大差はありません。これらを実践することによりフレイルにならず、健康寿命を保つことが認知症減少につながるのです。これらの施策なり柱は分かっていることですが、どうしたら継続出来るかが課題です。認知症を社会的問題と捉え、自治体が音頭をとることによって政府が掲げる目標を達成することではないでしょうか。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/