月刊ライフビジョン | 地域を生きる

詩人のカフェ

薗田碩哉

街のイベント帖26


もぐさ詩人のカフェ
日本を代表する詩人の詩を読み合って、 一日詩人になりました。


 東京都日野市百草団地にある「百草ふれあいサロン」には常連としてよく出かけていく。商店街の一角にあった蕎麦屋が廃業した後を都の助成金を活用して喫茶店風に改造、自治会などの地域団体が運営主体となり、月曜から金曜まで開店、コーヒー100円お代わり自由、住民有志が1日千円の超薄給でお世話役を勤める。客は高齢者が圧倒的だが、おしゃべりしたり本を読んだり将棋を指したり、いつも賑わっている地域のオアシスだ。
 春らしい晴天のある日、ここで「詩人のカフェ」というプログラムをやってみた。5,6人ずつのテーブルを5組ほど作り、好きな席に着く。各テーブルにはホストがいて詩の紹介をしてくれる。今回取り上げたのは有名どころで谷川俊太郎、まどみちお、吉野弘のお三方の詩集、それに介護現場を主題にお年寄りの悲喜こもごもを詩に昇華させた斎藤恵美子さんの『最後の椅子』という詩集も取り上げた。
 ホストを囲んで詩を楽しんでいると10分ほどで鐘が鳴り、メンバーはそのテーブルを離れてそれぞれ別のテーブルに移動する。そこでまた新たな詩集に触れて刺激を受け、次々にテーブルを回って詩の世界の広がりを感じ取る。最後はまた初めのテーブルに戻って感想を語り合うという趣向だ(こういうのをワールドカフェ方式と呼んでいる)。
 詩を味わった後は詩を作る時間。まずは順番に心に浮かんだ詩的な句を思いつくまま口に出してみる。単語ではなくいくつかの語の連なり――修飾語が付いた名詞や、名詞と動詞でできた簡単な句―を言うのがお約束。「あったかい日差し」「猫は大あくび」「つぼみふくらむ」というような句を連想ゲーム風に回していく。始めはなかなか出てこないものの、やがて調子がついて、次々と「らしい」文句が生み出される。気に入ったのが見つかったらラベルに書いて壁に貼ってある模造紙に張り付ける。最後はそのラベルを組み合わせ、順序を考えて一編の「詩」へと整えていくという手順、名付けて「連想詩」と呼ぶことにした(本邦初演? かもしれない)。
 そうしてできあがった連想詩作品の一節を紹介しよう。

  野原でちょうちょは鬼ごっこ
  あっちの水よりこっちの水が甘いぞ
  ジャガイモの芽が出た(早く食べたい)
  子どもの声がひびき渡る
  青い空に向かっておかあさ~ん
  お父さんも元気だよ~ 
  桜の下で踊っているのは私
  夢はニューヨーク真夜中のプリマドンナ

 「これが詩なの?」と笑われてしまうかも知れないが、参加メンバーは十二分に楽しんだ。論理的な意味ではなくて、言葉の味わい、手触り、言葉が喚起するイメージが新鮮だった。誰もが「私も詩人になれる」という思いを深くした試みだった。


薗田碩哉(そのだ せきや)
1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。さんさん余遊研究所主宰。