日産自動車カルロス・ゴーン元会長の巨額報酬がマスコミを賑わしています。2010年から2014年までの5年間に99億9800万円の報酬を49億8700万円と、約50億円少なく記載したとして逮捕されています。ゴーン元会長は報酬額が年間約20億円でうち10億円が退任後の慰労金として支払うことになっているという。ゴーン元会長の報酬は高すぎるといわれていたが、何をもって決められたのか。
カルロス・ゴーン元会長の功罪
カルロス・ゴーン氏は1999年に経営不振の日産自動車(日産)立て直しのために入社しました。入社4か月後に「日産リバイバルプラン」をまとめ、21,000人のリストラを行いゴーンショックとも言われました。そのほか工場閉鎖や購買コストの削減などの大胆な改革を実行し、2001年には前期の6,844億円の赤字から、3,311億円の黒字へと転換させ、その功績は高く評価されています。さらに、2016年には三菱自に資本参加し、ルノー、日産、三菱自の3社連合体制を構築しました。その功績は大きいものがありますが、独裁的な経営によって立て直した実績が今回の高い報酬につながったように思います。
ゴーン元会長には上記のほか、10年~17年度の8年間の報酬約91億円を有価証券報告書に記載しなかったとして再逮捕、そして保釈が予想された21日には損失付け替えによる特別背任容疑でみたび逮捕されました。
経営者として高く評価され、気さくな人柄とも報じられていますが、今回の金銭問題をどう考えるか。「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」と英国歴史家のジョン・エメリク・ダルバーク・アクトン(1834~1902)が警句を鳴らしましたが、ゴーン元会長にこの警句が届かなかったようです。今回の逮捕に疑問を呈する専門家もいますが、違法性が争われるのはこれからです。庶民からは縁遠い金額ですが、経営者の報酬に関心が高まった事件といえそうです。
役員の報酬評価基準
会社は企業活動を通して利益を上げます。その利益の配分は、①株主への配当、②従業員への給与、賞与、手当など、③国に対しての租税・公課、④事業そのものに対しの蓄積が考えられています。上場会社は株主へ配当することが求められており、配当できない経営者は失格とみなされます。さらに従業員への給与や手当等は労働の対価として支払う義務があります。賞与は法的な義務はありませんが、利益に応じて支払われるのが一般的です。そして会社を存続発展させるために社内蓄積にも配分されます。こうした利益配分では、役員報酬は➁を拡大解釈し、役員(経営者)への給与、賞与等の報酬を含むことが出来ると思います。ただし、会社には上記の他に従業員の雇用を守るという社会的責任があり、役員の評価には業績向上に雇用安定が加味されます。ゴーン元会長の多額な報酬には、業績向上のプラス面と21,000人のリストラによる解雇というマイナス面も考慮すべきです。
今回の事件で役員の報酬の決め方が不透明なことが指摘されていますが、役員報酬の決定手続きを透明化する「報酬委員会」を設置する企業が増加しているようです。日本経済新聞(9月2日付電子版)によれば、報酬委員会を導入した企業は昨年8月までに660社にのぼり、前年に比べて約3倍となっています。報酬委員会は、取締役または執行役が受ける報酬を決定することを目的とする機関で、3名以上の取締役により組織されます。しかし、この委員会に従業員代表が入っていません。労働組合のある会社の賃金は労使の交渉によって決まります。役員の報酬決定にも従業員の意見を入れるべきと思います。会社の業績は役員の功績だけではなく、従業員の成果も当然含まれる。そして役員の報酬が従業員の給与等とかけ離れたものであってはならない。今回の事件がこうした教訓を残すものになってほしいものです。
石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。 http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/