月刊ライフビジョン | 社労士の目から

働き方改革とは“楽をする工夫”

石山浩一

 政府が力を入れている働き方改革関連法案の労働基準法関係の施行通達が出されました。その内容はフレックスタイム制の緩和と時間外労働の上限規制に年次有給休暇の付与義務等となっています。但し、高プロ関連法律は追って通知するとなっています。主な改正内容は下記の通りです。

 具体策は別として「働き方改革」という言葉はかなり浸透しているようですが、50年前に松下幸之助が書いた「働き方の工夫」という一文を見つけました。働き方改革という大上段に構えたものではありませんが、働き方を考えさせる内容なので末尾に転載しました。

“フレックスタイム制の緩和”

 改正の趣旨は、子育てや介護、自己啓発などのニーズに合った働き方を可能とし、より利用しやすい制度とするため、となっています。改正内容は清算期間の上限の延長です。これまでは1か月の所定労働時間内での清算が必要でしたが、これが3か月以内に延長されました。改正後は3か月内の決められた期間内での清算となるため、各月の労働時間に長短が生じることになります。そのため長時間労働が懸念されることから、清算期間が1か月を超える場合は1か月ごとに平均して1週間当たりの労働時間が50時間を超えてはならないとしています。こうした労働時間は本人が把握しにくいため、使用者は各月の労働時間を本人に通知することが望ましいとしています。フレックスタイム制を採用するときは、使用者が各日の始業・終業時刻を画一的に特定することは認められていません。改正の趣旨を理解して従業員のニーズにあった運用が望まれるところです。

 法律によって「仏」はできましたが、仏に「魂」をいれる企業の真価が問われることになると思います。

“時間外労働の上限規制の新設”

 電通事件等、長時間労働による労災事故が相次いで起こっていますが、長時間労働は健康だけでなく家庭生活にも大きな影響を与えています。こうした長時間労働を是正することによって、ワークライフバランスを改善することが改正の趣旨となっています。従来の上限無く時間外労働が可能だった臨時的な特別な事情であっても、規定を上回ることが出来なくなりました。その上限の限度時間は、1か月について45時間、1年については360時間となっています。なお、労使合意した特別な事情により必要とした場合でも、1か月について休日労働を含み100時間未満とし、1年では720時間を超えてはならないとなっています。特に今回の改正の特徴は36条協定の労働時間をオーバーした場合は、6か月未満の懲役または30万円以下の罰金刑となっています。当初の改正案は1年以下の懲役または50万円以下の罰金でしたが軽くなっているのが気になります。この刑罰で長時間労働の抑制につながるのか注目されるところです。

“年次有給休暇付与の義務化”

 年次有給休暇(以下・有給休暇)の取得率が50%前後で低い状態が続いています。正社員の16%が1日も取得していないことなどから長時間労働も懸念されており、年5日以上の有給休暇を確実に取得するための改正です。改正内容としては10日以上の有給休暇がある従業員に対し、5日について有給休暇発生日の日から1年以内に従業員ごとに取得時季を定めて与えなければならないとなっています。但し、従業員自ら有給休暇取得を申し出た日数や、計画的取得によって取得した日数分を5日から差引いても良いことになっています。なお、有給休暇取得の時季を決めて与える場合は、従業員の意見聴取が義務つけられています。

 この法律の改正によって懸念されるのは、本人が取得を申し出た場合の扱いです。5日以上の有給休暇取得を申し出た場合、会社は時季を指定して与えることを要しないことになっているのです。

 平成19年にワークライフバランス推進官民トップ会議が設立されました。メンバーは内閣官房長官や関係大臣5名、団体代表は当時の経団連会長や日本商工会議所会頭に労働組合からは連合会長と錚々たる顔ぶれで構成されていました。このトップ会議が発表した数値目標では、有給取得率は10年後の平成29年に完全取得となっているのです。達成年度は過ぎましたが、政府はこの時の目標である完全取得のために改正法案を運用すべきです。

松下幸之助の”働き方の工夫”(転載)

 額に汗して働く姿は尊い。だがいつまでも額に汗して働くのは知恵のない話である。それは東海道を汽車も乗らず、やはり昔と同じようにテクテク歩いている姿に等しい。東海道五十三次も徒歩から駕籠へ、駕籠から汽車へ。そして汽車から飛行機へと、日を追って進みつつある。それは日とともに人の額の汗が少なくなる姿である。そしてそこに、人間生活の進歩の跡が見られるのではあるまいか。

 人より一時間、よけいに働くことは尊い。努力である。勤勉である。だが、今までよりも一時間少なく働いて、今まで以上の成果を上げることもまた、尊い。そこに人間の働き方の進歩があるのではなかろうか。

 それは創意がなくてはできない。工夫がなくてはできない。働くことは尊いが、その働きに工夫が欲しいのである。創意が欲しいのである。額に汗のない涼しい姿も称えるべきであろう。怠けろというのではない。楽をする工夫をしろというのである。楽々と働いて、なおすばらしい成果があげられる働き方を、お互いにもっと工夫したいのである。それから社会の繁栄が生まれてくるであろう。


石山浩一  特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/