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政治モラル崩壊は最上流の大掃除から

司 高志

 「道義的な責任はあるが、処分に値する違法な行為はなかった」これは、障害者の雇用を促進し、各省庁の雇用率のとりまとめをしている厚労省が、自らの障害者の雇用率の水増しに対して放ったコメントである。

 このコメントを見たとき「あっ! あれと同じだ! 」と思った。同じ趣旨の発言をした、そう、前東京都知事である。彼は書道の時に着る中国服を政治のための支出、つまり政活費として計上するなど、セコいお金の使い方をして、ついには都知事を辞めてしまった。

 政活費を生活費に使って、第三者の弁護士にお金の使い方について精査してもらった結果が、「不適切だが違法ではない」という結論だった。もちろんこんな道義の崩壊が許されるはずもなく、世間の批判を浴びた。これでは突き詰めれば、法律に触れなければ何をしてもいいということになってしまうではないか。仮にも首長たる者が、法に触れなければ何をしても無罪放免ということになるはずがない。

 さて、いったんはこれで終わりになったかに見えたのが、冒頭の厚労省発言である。

 確かに雇用率の計算をする役目は、役職に付属していることが多いであろう。人事異動等でその役職に就いてしまうと、自動的に仕事として割り振られる。そうすると前年と同じ方式で計上するしかない。前年と同じ方式で計算して雇用率が満たされていれば、それで仕事は完結である。もし足りなければ、健康診断の結果や休職している人を新たに組み入れて雇用率を満足するようにする。担当者は仕事としてやっているだけで、そこには悪意はない。

 退職した人や死んでしまった人を数の中に入れてしまっていても、業務上の集計ミスであり、確認行為の省略であって、罰則の規定には当たらないと判断したのであろう。どの程度ごまかしを認識して水増ししていたかは、本人しかわからない。また現在その職に就いている人を罰してしまうと、過去の他人の罪までかぶってしまう。当然自分ばかりが悪いのではないという話になる。こうなると、その前任やその上司まで巻き込む、内部で罪の拡大合戦が行われることになる。ここ2、3年ではなくかなり前からやっていたようなので、相当の広がりをもつだろう。

 ということで、直接罰することができる規定もなさそうだし、業務上の集計ミスや確認行為が省略されてしまったということで、違法行為はなかったという結論に達したのであろう。

 と考えていてふと気がついたが、この論理を明言しないで上手に使っておられる、日本で一番偉いあの方がおられるではないか。

 モリカケ問題、各省庁の文書管理を影で都合よく操っているこのお方とは、自分が法律違反の直接証拠を突きつけられるまでは蛙の面にションベン、謝罪や反省はするが一向に改善しないことを繰り返す総理である。これがまさに「不適切だが違法でない」とか、「道義的に責任はあるが、違法ではない」という論理と全く同じ構造ではないか。日本全国上から下までこんな論理がまかり通り、法律違反でなければ何でもありという、実に見苦しい社会を作っている。

 企業に至ってはさらにルール無用で、製品検査のデータのごまかしや技能実習生のブラック雇用、福島関連の高線量地域での作業手当のピンハネなど、こちらはもっとすさまじく、違法であってもバレなきゃOKという、これまた非常に住みにくい社会を形成している。

 それもこれも、「競争して安くなるのがいいことだ」という原理で世の中を動かしているためだ。安くするために一番先に切ってくるのが、人件費と安全経費である。

 上から下までモラル崩壊。最上流である総理から掃除せねばなるまい。