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「選んでいただける国」になれるか

音無裕作

 9月の訪日観光客数が対前年同月比で5.3%減少し、216万人だったという。災害の影響が大きいのだろうと報じていた。

 日本政府は、訪日外国人観光客数を、2020年に4,000万人、2030年までには6,000万人とする目標を定めている。2017年が対前年比19.3%増の2,869万人だったというから、現在までの勢いに加え、オリンピック効果も考えると、2020年の4,000万人は達成できるかもしれないが、言語も習慣も内向的なこの国へ、お祭りの後も観光客はそんなに増え続けるものだろうか。

 もっとも、言語も習慣も違う異空間だからこそ、冒険気分で楽しいのかもしれないが、もしそうだとしたら、外国人観光客の受け入れ態勢を整えるほど、「冒険」の魅力が失われてしまうということになるので、これまたややこしい話となりそうだ。

 観光客が増加しつつある現在、問題になってきているのが観光・サービス業の人手不足である。おりからの景気回復の影響もあり、深刻化した人手不足から倒産に至るのは観光・サービス業に限らないという。さらに今後は少子・超高齢化が進行するので、日本の生産年齢人口は、減少の一途をたどる見込みである。

 そんな中で政府は、外国人労働者の受け入れ拡大によって労働力を補おうと、人手不足が特に深刻な建設、農業、宿泊、介護などの分野に、単純労働者を受け入れるよう政策の転換を目指すという。しかし、そう簡単にいくものだろうか。

 かつてのように、日本が飛躍的に経済発展していた時代ならば、相対的に人件費の高かった日本で、これまた高価な「円」を稼ぐことにより、自国へ送金すれば、大きな経済効果があったことだろうが、現在ではその効果もだいぶ縮小してきていることだろう。おまけに今や、日本以外のアジア各地に働ける場所は増えている。いつまでも、日本に来てくれる就労者が大勢いると考えるのは、甘いのではないだろうか。

 言語や習慣だけでなく、外国人が日本で暮らす障壁の一つとして、彼らに対する偏見や差別感を持つ国民の少なくないこともあると思う。外国から帰化した選手や、ハーフのスポーツ選手が活躍しても、「所詮、外国人でしょ」などと冷めた意見を言う人もいる。

 政府からして「選んでもらえる国に」と言いながら、外国人労働者の受け入れについての議論の中身を見ると、「働かせてあげる」というような上から目線を感じてしまう。

 少子高齢化だから外国から労働者を調達する、という発想自体も疑問に感じるが、自国の将来を憂うだけでなく、日本に働きに来てくれる方々にどんなメリットを供給できるかという「おもてなしの心」を持って、議論を進めるべきではないだろうか。