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総裁選と憲法改正手続に思うこと

渡邊隆之

 9月20日午後、自民党総裁選は投開票が行われ、安倍晋三首相が連続3選を果たした。

 獲得投票数は、議員票については安倍氏が329票、石破氏が73票、党員票は安倍氏が224票、石破氏181票。合計で安倍氏553票、石破氏254票だった。安倍支持派は「圧勝」を印象付ける発言が目立つが、石破支持派は「善戦」を主張する。

 自民党員は106万人程度であり、日本の総人口の1%未満にすぎないが、それでも投票者の母数は国会議員票のそれに比べ、圧倒的に多い。ゆえに、党員数での得票比率が安倍氏55%石破氏45%というのは、主権者国民の意思に近いと私は感じている。討論期間があと1週間あれば、もしかしたら党員票での得票率は逆転していたかもしれない。

 議員票については、安倍首相支持のため、地方議員への圧力をかけたり、対立候補である石破派所属の農水大臣への辞任を要求したり、最大派閥の細田派が所属議員に安倍支持の誓約書に署名させ締め付けを行うなど、政権担当政党もここまで地に落ちたかと思うばかりであった。国民に目を向けた議員が少ないようなので、次の国政選挙での投票行動の参考とさせていただくことにする。

 さて、3選を果たした安倍氏は念願の憲法改正への意欲を強めている。

 ところで、憲法96条1項では「この憲法の改正は、(衆参)両議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」とされている。

 1度も憲法改正がなされていないとして、安倍内閣の下で、憲法改正手続法が制定されたのはご存知の方も多いと思われる。

 ここで気をつけておきたいのは国民投票等での「過半数」の意味である。これは有権者全員の投票権の過半数ではなく、「有効投票」の過半数を意味する。投票率が低ければすんなり憲法が改正されてしまうのである。さらにもっと問題なのは、改正手続法に最低投票率についての規定がないことである。

 この点、憲法96条1項には、最低投票率については明文がない以上、これを設けることは加重要件を設けることとなり妥当でないとの主張もあるようである。

 しかし、憲法は国家の基本法であり、国家権力をしばる法規範である。最低投票率もなく、すんなり改正されるのであれば、憲法の本来の趣旨、すなわち、国家権力の濫用を防止し人権保障を図る、という趣旨が損なわれてしまう。憲法改正手続を厳格にする硬性憲法としたのは、憲法が個人の尊厳を確保する大事なものなので、十分に討議し熟考の上、厳格な手続を踏むこととしたのである。であれば、現行憲法に明文規定はないものの最低投票率を予定しており、加重要件だとの批判はあたらないと考える。この度の自民党総裁選で石破候補が、7割程度の国民が納得する改正でないと国家を二分することになり好ましくないとした発言は96条の趣旨を踏まえた発言であり、私は支持したい。

 自民党、公明党ともに組織票の積み上げで選挙を勝ち抜く戦術に長けているが、国民の信任・正当性が担保されない改正憲法など何の意味があろうか。身の周りのこともすべて政治や憲法の方向ぎめにかかわりがある。主権者は国民なのだから政府や国会が「生産性がない」組織とならないよう、監視をしつつ、理不尽なことに声を上げていきたいものである。