月刊ライフビジョン | 社労士の目から

社会と共生する高齢者

石山浩一

 世界に類を見ない日本の超高齢化社会には多くの課題があります。そのひとつが2025年問題です。人口構造は自然現象の大きな変化がない限り、予測通り推移していきます。そのため1950年ごろ生まれた「団塊の世代」が2025年には75歳を迎えることになり、75歳以上のいわゆる後期高齢者の人口が2100万人(18%)となります。これに高齢者を加えると3500万人(30%)で、約3人に1人が65歳以上となるのです。

 こうした状況を迎えるにあたって考えられるのは、①年金、②健康保険の財政問題です。保険料を払う20~64歳が6635万人(54%)、大部分が扶養家族である20歳未満が1943万人(16%)となり、高齢者・後期高齢者をふくめると保険料を払う人と払わない人が同数となってしまうのです。このため年金・健康保険・介護保険等の社会保険の財政が一段と厳しさを増してきます。これをどう乗り切るか最大の課題なのです。

 ※日本の法律・法令では65~74歳を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と規定しています。

 ※人口データーは総務省「国勢調査」及び人口推計は国立社会保険・人口研究所(平成29年推計) 

「年金ようかん」をどう分ける

 年金給付は一定水準を維持するため計画的に保険料を引き上げてきましたが、少子高齢化の進展によって収入と給付のバランスを維持することが困難になっています。その状況に2025年問題が追打ちを掛けます。2016年度の年金積立額は153.4兆円となっていますが、高齢化の進展を考えるとさらなる保険料の引き上げが必要となってきます。保険料の引上げを避けるためには給付を引下げる必要があり、年金制度にマクロ経済スライドを採用しています。

 マクロ経済スライドは年金給付額を改定するとき、現役世代の減少や平均余命の延びた分を減額する制度です。しかし、その前提として賃金や物価が上昇のときは「スライド調整率」を差引き、賃金や物価がマイナスの場合は発動しないことになっているのです。そのため平成15年以外は発動されませんでした。

 7月29日の朝日新聞に、社会保障ゼミで学んだ学生による現在の年金の仕組みへの疑問が掲載されていました。年金総額をようかんに例えて、高齢化により年金受給者がようかんを食べる期間が延び、現在の受給者の取り分が増えている。一方、1人の食べるようかんの厚さを抑える目的のマクロ経済スライドが機能せず、現役世代の将来のため残すべきようかんを受給者に食べられているというのです。そこで学生たちは官僚や政治家、そして公務員や民間会社のOBで組織する「日本退職者連合・(退職者連合)」などと、年金制度について対話を重ねているというのです。退職者連合は年金が生活の糧であり下げることに反対してきましたが、学生たちとの対話によって「私の年金を守る」ことに疑問を感じたというのです。自分たちの子や孫も含めた「私たちの年金」じゃないか。それなりの年金をもらっている我々が「既得権を守れ」とは言えないと…。頑なに「私の年金」を守ろうしていた退職者連合が方向転換しようとすることは、高齢者と社会が共生する一歩といえます。

 年金制度の少子高齢化への対応として支給開始年齢の引下げ等が検討されています。「年金ようかん」を現役と受給者がいかに上手に分けて食べるか、の話し合いがこれからも続くことでしょう。

 ※「スライド調整率」は現役世代が減少していくことと平均余命が伸びていくことを考えて「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」で計算される。

きょうようで豊かな老後を

 山口県周防大島町で3日間行方不明だった2歳の子供をボランティア活動で捜索に参加していた尾畑さん(78歳)が見つけたことが大きく報じられました。尾畑さんは2004年の新潟県中越地震以来全国の被災地でボランティア活動を行っていますが、今回の周防大島町の前は西日本豪雨の広島県呉市で活動をしていたといいます。大分県日出町から軽自動車で各地の被災地に行って活動しているが年金が生活費という。後期高齢者にとって生活費と健康できょうよう(事)のあることが目標です。尾畑さんは見事にその目標を達成しているのです。若いころから登山で鍛えた身体は頑健で、被災地では若いボランティアスタッフのリーダーとして活動しているという。

 老いとともに身体は老化現象による病気やケガで病院へ行く頻度が増加します。年齢階級別の1人当たり医療費は65歳未満が17.9万円に対し、65歳以上は72.4万円と約4倍で、75歳以上では90.7万円と約5倍となっています。必要な医療費の大部分を税金と現役が負担していますが、健康保険についても現役への負担を軽くする対応が必要です。いわゆるジェネリック薬品の使用や過度な病院への通院、そして健康を維持するための生活習慣等が求められています。尾畑さんのようにはできませんが、高齢者ひとり1人が年金を生活の糧に健康で地域に貢献しながら生活することを、尾畑さんは教えてくれたように思います。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/