労働契約法に基づく正規と非正規との労働条件の格差に対する裁判所の判断が、最近になって報じられるようになりました。判決は大きく分けて正規社員と非正規社員との手当の格差と、60歳定年後の再雇用時の基本賃金の格差とがあります。マスコミで報じられている手当の格差及び60歳再雇用の賃金等に関する判決は下記の通りです。
正規労働者と非正規労働者の手当について
日本郵政 | 日本郵便 | ハマキョウレックス | 長澤運輸 | 井関農機 | |
東京地裁 | 大阪地裁 | 高裁➡最高裁 | 高裁➡最高裁 | 松山地裁 | |
地裁判決 | 29年9月 | 30年2月 | 28年7月 | 28年11月 | 30年4月 |
最高裁判決 | 30年6月 | 30年6月 | |||
基本部分 | ― | ― | ― | × | ― |
外部業務手当 | × | × | - | - | - |
早出勤務手当 | × | × | - | - | - |
祝日給 | × | × | - | - | - |
夜間特別手当 | × | × | - | - | - |
業務精通手当 | × | × | - | - | - |
年末年始勤務手当 | ×➡80% | ×➡○ | - | - | - |
住居住宅手当 | ×➡60% | ×➡○ | ×➡× | ×➡× | ×➡〇 |
夏季冬季休暇 | ×➡○ | ×➡△ | - | - | - |
病気休暇 | ×➡○ | ×➡△ | - | - | - |
無事故手当 | - | - | ○➡〇 | ◎ | - |
作業手当 | - | - | ○➡〇 | - | - |
給食手当 | - | - | ○➡〇 |
-物価手当 |
×➡〇 |
通勤手当 | - | - | ○➡〇 | ◎ | - |
皆勤(精勤)手当 | - | - | ×➡〇 | ×➡〇 | ×➡〇 |
家族(扶養)手当 | - | ×➡〇 | ×➡× | ×➡× | ×➡〇 |
※ ○は裁判所が支給を命じた手当。×は裁判所が支給または改定を命じなかった手当または基本部分
※ -は該当(請求)なし。 △は裁判所判断せず。◎は非正規労働者にも会社が支給している手当。
住居(住宅)手当に関して、日本郵便は東京地裁と大阪地裁で判断が分かれ、大阪地裁の全額支給に対し東京地裁が60%、松山地裁は井関農機に対して全額支給を命じている。ただし、最高裁はハマキョウレックスや長澤運輸での住宅手当不支給は不合理ではないとしている。皆勤(精勤)手当については最高裁が長澤運輸及びハマキョウレックスに、松山地裁は井関農機に支給を命じている。家族手当は日本郵便での大阪地裁と井関農機での松山地裁は支給を命じているが、最高裁はハマキョウレックス及び長浜運輸では不支給を不合理とは認めていない。
各社の手当には共通項目が少なく、支給・不支給の合理性の判断は現段階では難しく、今後の裁判が注目される。
60歳定年後の再雇用者の労働条件
賃金の基本部分について、長澤運輸の原告が再雇用後の賃金引き下げは不合理として是正を求めていた。これに対して2審の東京高裁は「高齢者雇用安定法により60歳以降の雇用を義務つけられており、定年退職した高齢者の賃金コストの増大を回避する必要があることを考慮すると、再雇用者の賃金を定年退職時より引き下げることは不合理とはいえない」とし、「継続雇用において職務内容や職務範囲が変わらないまま、賃金を引き下げることは広く行われている。会社が嘱託乗務員と正社員との賃金差の縮小に努力していることなどから、2割程度の減額は直ちに不合理とはいえず、労働契約法20条に違反するということはできない」としていた。最高裁がこの判断を是認し、判決が確定している。
九州惣菜事件やトヨタ自動車事件での60歳以降の労働条件は、高齢者雇用安定法の趣旨に基づいて判断されている。60歳定年後の労働条件は正規・非正規社員との格差以上に、高齢者雇用安定法の趣旨に基づく労働条件が重視されるものと推定される。手当同様に今後の裁判が注目される。
石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。 http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/