月刊ライフビジョン | 社労士の目から

懸念される高度プロフェッショナル制度

石山浩一

 政府が実現を目指す働き方改革だが、国会ではソバ屋談議(モリ・カケ問題)の影響で審議が進まなかった。政府としては残業時間に対する罰則規定や有給休暇の付与義務で懐柔して、経営側の要望の強い裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)実現のための法律改正案を提出した。しかし、厚労省の労働時間調査の資料にミスがあり裁量労働制の拡大は見送られたが、30日の報道によると31日に衆議院本会議で採決することになった。高プロ制度の該当者には労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金などの規定が適用されない。年収1075万円以上の金融商品の開発、ディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務などが該当者とされている。基準法の管理監督者に匹敵する高プロ制度は、ワークライフバランスへの弊害や過剰労働が懸念される。

過重労働による弊害は解消できるのか

 現在の榊原経団連会長(東レ)に代わって、6月から就任する次期中西経団連会長(日立)は ――人々の仕事への向き合い方が変わり、さらに技術革新が労働そのものを変えつつあります。私は、「働き方改革」は喫緊の課題だと考えていますし、中でも「高度プロ制度」の導入は不可欠です。確かに、労働強化や従業員の健康問題などマイナスの指摘があります。しかし、過重労働問題の歯止めや健康確保措置に関してもきちんと法律に盛り込んであります。一部の違反行為を恐れて、欧米を中心に世界的にも認められているや働き方を否定するのはもったいない―― と語っています。(文芸春秋6月号)

 さらに中西会長は「エンジニアだった若いころ、何かの設計をするときに仕事とプライベートの線引などなく、四六時中そのことを考えていた。職場を出て帰宅してからも、頭の中で設計のシミュレーションをし、布団に入ってアイディアが閃いて、枕もとのメモ帳に書き留めていた。そういう時は仕事と仕事外の線引きをすることが出来ず、この制度があったらどれだけ恩恵があったかわからない」という。こうしたことに思い当たる人は少なくないはずだし、現場に寝袋を持ってきて泊まり込みで試験をしているので帰させたという話を聞いたこともある。

 しかし現在は技術革新が労働そのものを変えていると言いながら、30年ほど前の体験から高プロ制度の必要性を説いている。当時は上司が部下の行動を把握し、寝ずに仕事をして疲れていれば部下に休むように声を掛けていたはずである。一方、最近の過労死の原因は、追い詰められて自分を見失っているというケースが指摘されている。寝ずに仕事のことを考えていたら疲れるのは当然であるが、部下の時間管理はコンピュータまかせであり、上司が部下の体調変化を見抜けない現状での高プロ制度は、過労死を促進する改正と言わざるをえない。

高プロ制度を護る体制は不十分

 高プロ制度を実施するための条件として「賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対して意見を述べる委員会を設置する。高プロ制度の対象労働者の健康管理を行うため、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間を把握する措置等を委員会で決議し、厚労省の定めるところによりその決議を行政官庁に届け出ること」となっている。

 20項目ほどある労使協定や労使間に関する委員会設置は一見問題解決には重要と思われる。しかし、労働組合の組織率が17%という現状を考えたとき、労働組合代表でない労働者代表が会社に対してどれだけの意見がいえるか疑問である。結局、大部分は会社の意向が反映された決議になることは容易に考えられる。行政官庁に届ければ労働者は守れるのだろうか。36協定をはじめ多くの労使協定に届け出義務があるが、それらを含めて労働者を護るための監督書のチェック機能強化が必要と感じるのである。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/