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やばい仕事を振られたときの護身の極意

司 高志

 本題に入る前に、感想をちょっと二言。

 まずは、現政権はえこひいきが過ぎる。前国税庁長官や首相夫人付き公務員など、現政権の面倒をみた人は比較的厚遇するのだが、前財務次官のように現政権に貢献していない人には、セクハラの全容が解明されなくても、冷たくお払い箱である。次官は記者から、モリカケなど首相のお友だちについての取材もされたかもしれないが、記者にゲロしなかったくらいでは、大きな貢献にならないらしい。あっさり見捨てられ辞任に至った。

 もう一言は公務員倫理審査会へ。この組織、下っ端役人には結構厳しいが、大物になると、とたんにダンマリか。財務前次官の場合、どっちが会食のお金を出していたのかを調べるとか、夜の接待付き取材はメディアも公務員もやめましょう、という啓発もできるはずであるが、黙して語らず。法令違反でなければ、倫理なんてどうでもよいのか。法令違反スレスレの微妙な部分こそ倫理ではないのか。最近では内閣府のカケ学園の視察に、カケの車を使っていたという報道もあるのに何もしない。

 というわけで、腹立たしさを抱えつつ、本題に入ろう。

 公務員は報道関係の対応には死ぬほどの気を遣う。報道は、揚げ足取りや発言の部分的切り取りなど寝首を掻こうと虎視眈々で狙っている。

 もう古い話になるが、耳掻き1杯で百万人ががんになる、とわれたことがあった。これは、1972(昭和47)年にアメリカの学者、アーサー・R・タンプリンとジョン・W・ゴフマンが発表した学説である。現在では、当人たちを含めこの説は支持されていない。プルトニウムの致死量は、摂取した時が1.15グラム、吸入した時が、0.26ミリグラムである。どちらも致死時間は15年以上である。15年以上というように上限もなく、いつ死ぬかもわからないということは、即死する致死量とは異なっている。致死量というよりは、がんになり、死亡する確率が上がることである。また、吸入の場合は、一万人分で2.6グラムになるから、耳かき一杯に近そうだが、どうやって一万等分するのだろうか。それを吸入させるのはもう現実の手法としては不可能だろう。報道されてしまったら後の祭り、修正などは報道に出ないから長らく誤情報が喧伝されることになる。

 ところで、公務員にとっては天敵ともいえる報道関係者に、次官がネギしょって酒席に出向くものであろうか。前財務次官は、本当にどうしようもない愚か者である。本命のモリカケ関連質問には、セクハラではぐらかして洩らさなかったのかも知れないが、セクハラのほうは報道されてしまった。報道関係にあっては、オフレコ破りなど常識である。公務で多数の関係者がいるとき以外は、報道関係者に会わないくらいのガードの硬さは常識である。

 このバカ次官に加えてメディア側の対応もわけがわからない。セクハラが常態化しているのになぜ取材を続けさせるのか? セクハラ次官の相手をすればどうなるか、わかっていて取材を続けるのは結局、代償を払ってでも重要情報を得たいということだろう。また、こういうことがほかの会社で見つかると、この会社は鬼の首でも取ったかの報道をするのに、いざ自社が当事者となるとだんまりを決め込むとはどういうことか。

 結局のところ、本命情報が得られなかったのでセクハラ報道に切り替えて、取材に費やした時間や金、受けた屈辱の報復をしたのかもしれないが、自社では報道しなかった、いや、できなかった。

 これは考えてみれば当たり前で、わざわざセクハラで報道してしまうと、ほかの全省庁の職員は、もう金輪際この会社の取材は受けなくなる。また、オフレコ破りも皆が知る事実となってしまう。そこで他の報道機関に情報を持ち込んだわけである。これをやってしまうと、この記者の職業人生に赤信号がともることになる。たぶんレッドカードで退場だろう。

 こういうやばい仕事を振られたときには、勇気をもって断ることが護身に通ずる。やばい仕事を断ってしまうと使えないやつ、とか言われて、一時的に出世の道は閉ざされる。これが当人にとっては結構辛いものとなるが、一生の職業人生で考えれば、大逆転のチャンスはある。

 左遷されたり閑職に飛ばされても、地道に仕事をしていれば再浮上のチャンスが出てくる。閑職であるがゆえに人生について十分考える時間があり、出世よりも重要な気づきが与えられることもある。その職場で芽が出ず、結局転職する場合でも、まともな職場が見つかる場合が多い。

 護身のためには一度地獄を味わい、浮上のチャンスを待て。これが護身の極意である。