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がんばれ、ニホンシャ

音無祐作

 4月末に北京モーターショーが開催された。今回のショーは電気自動車が主役だったらしい。中国政府は、政策により新エネルギー車販売の一定量の義務付けや購入や認可の優遇を行い、積極的に電気自動車(EV)へのシフトを目指している。

 中国では近年になってEVやプラグインハイブリッド車を製造するメーカーが躍進しており、2016年時点で中国国内のこれら新エネルギー車の9割は自国メーカー製となっている。

 たしかに、北京など大都市の大気汚染は深刻であり、化石燃料の枯渇の心配なども考えると、EVシフトは世界的な潮流にはなってくるのだろうが、その電気をどうやって作るのかという問題や、リチウムやコバルトなどの希少金属資源確保の未来を考えると、果たしてEV一本足で大丈夫なのかということも心配になる。

 とはいえ、中国の政策より以前から欧州の国々でも、将来的には化石燃料を燃やして走る車は、減らしたり、無くそうというのが世界的潮流であり、エンジンの未来はあまり明るくないことは想像できる。

 ジャーナリストや経済評論家などの一部では、複雑なエンジンという部品がなくなるため、日本のカーメーカーの先行きは不安で、やがて中国のメーカーや米国テスラのように、ITや電気が得意な新興メーカーにとって代わられるだろうという分析をする方たちも多い。

 本当にそうだろうか? 車はエンジンだけで走るものではない。どこかのCMで聞いたようなセリフだが、車を作るにはまだまだ様々なノウハウが必要である。衝突安全性や生産方法などもその一つだが、車を運転することが好きなマニアには、ハンドリング(操縦性)や乗り心地といったものが非常に重要な要素となる。エンジンの性能評価には馬力やトルクといった数字で表現できる部分があるが、ハンドリングなどの性能評価は感性に近いものなだけに、カタログなどで目を引きにくく、性能向上が難しい分野である。

 私は経済的理由でこれまで日本車しか乗ってこなかったので、詳しいことはわからないが、これだけ技術革新が進んだ日本のカーメーカーでも、専門家に言わせるとハンドリングや乗り心地、特に高速道路におけるそれらの性能では、欧州メーカーにいまだ追いついていないという。自動車競技の最高峰F1において、エンジンで成功した日本メーカーはあっても、車体で成功した例がないことがその証左だという話も聞いた。

 かつて同僚が欧州に出張した時の事。迎えに来た現地の人が日本の大衆車でアウトバーンを180km/h近い速度で走ることにビビってしまい、「この車でそんなにスピード出して大丈夫か?」と尋ねると、「これがニッポンの4気筒車の実力だ」と片手ハンドルでにっこり返されたそうだ。同僚の感想としては、きっと日本国内では法的に100km/hしか出せないから、そうした調整なのであり、真の日本車の実力はすごいのかもしれない、とのことであった。

 何にせよ、今の日本経済は自動車産業頼みである。製造業出荷額の約2割を占め、就業人口の約1割が関連した事業に従事し、最大の生産波及効果をもたらしている現状を考えると、自動車産業の衰退は何としてでも避けたい。

 城山三郎氏の「官僚たちの夏」と時代は違うが、官民一体となってこれからの世界各地のニーズにあう自動車づくりを模索する必要があるのではないだろうか。

 運転は好きだが、長距離は辛くなってきた私としては、まずは国内の空港や主要駅にもっと手軽に利用できる駐車場が整備されることを願っている。そうすれば、国内の自動車販売はもちろん、観光産業の発展や都心への人口集中の問題などにも良い影響があるのではないかと思う次第である。