月刊ライフビジョン | off Duty

サヨナラのタイミング

曽野緋暮子

 何となくアメーバのように集まってできた、「ちょっと歩いて、食べて、飲んで、お喋りする集まり」の12月恒例行事は、みかん狩りと忘年会。

 みかん狩りは仲間のみかん園主が摘みきれなかった出荷後のみかんを、自力で好きなだけ、持って帰られる量だけを摘み取りに行く。今回は60代から80代まで13名が集まった。JRの駅に集合、料金100円の渡船で目の前に見える島に渡る。渡船場から約5km歩いてみかん園に。

 最初に園主からみかんの摘み方を教わり、摘果ハサミを借りてみかん園の斜面を登る。足を踏ん張りワイワイ。青空のもと、みかんを頬張りながら摘むみかんが眩しい!

 各自が持てるだけの量を摘んだところで約5Km先の、ひと山超えた海岸公園で昼食。海岸沿いを歩いて早く着いていた人達はもうプチ宴会を開始していた。持ち寄りの食料と酒で盛り上がった席で初参加の80歳Tさんが、「こんなに歩かされるとは思わなかったが、昼間っからビールが呑めるので最高だ! 皆に誘われることが嬉しい。俺は誘われたら断らないから、これからも誘ってくれ。」朝5時半に家を出たYさんも80歳だ。「私もいつまで参加できるか解らないが、皆と青空の下で飲みながらワイワイいう席は外せないなあ。」宴会後ほろ酔いで最高35kg、最少6kgのみかんを、それぞれが担いで帰途についた。

 一週間後の忘年会、参加者15名。Tさん、Yさんはもちろん参加。特筆すべきは忘年会のためだけに、新幹線で4時間かけて駆けつけた山仲間のSさんだ。彼は定年退職後故郷に帰り、両親が亡くなった今は一人暮らしだが、遠隔地なこととメールをしないことで付き合いが間遠くなっていた。お金も時間も自由だがなかなか使う機会がない。ひとりでいると出かけることが段々億劫になると、日本酒を呑みながらお喋りして、最後は皆に支えられてホテルに直行。Tさん曰く、「Sさんも寂しいんだよ。久し振りに皆と楽しいお酒を飲んだんだと思う。年を重ねると他愛無い話をしながら気兼ねなく飲める友達がいないのは、寂しいもんだよ~。」

 先日、91歳女性の新聞投稿にもあった。――予約日に病院に行ったところ、3日後だった。帰宅して、こんなポカをしたとお喋りしたかったが友人Aは亡くなって、友人Bは施設に入っている。友人Cは最近音信不通でどうしているかわからない。こんな他愛もない話をする相手がいないことに愕然とした――、という内容だ。

 自分は元気で長生きしていても、他愛もない話をする相手がいない寂しさは確かにあるだろう。以前103歳の長寿を全うされた隣のおばあさんが、「長生きしていると友達がおらんようになるのがいけんよ。病院に行っても20歳以上も年下の人ばっかりで話が合わん。いい加減でサヨナラせんといけんわ~」と言われていた。

 今の世の中は健康で長生き! と言う流れだ。健康で身内や他人に迷惑をかけない生き方は理想だが、自分一人で長生きするのって、つまらないかもなあ。たまにはお酒を呑みながらお喋りできる、年下の仲間をつくっておきたいものだ。女性は年を重ねると家族より友達が大切! と誰かが言っていたなあ~。