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大切にしたい、日本の強み

音無祐作

 JR東日本が三井物産とオランダ系鉄道会社と共同で、イギリスでの鉄道運行事業を開始した。近年、鉄道車両の売込みでは日本企業が苦戦気味とよく耳にするが、運行事業を、それも鉄道発祥の地であるイギリスで受注できるとは、日本の産業にとってとても明るいニュースではないかと思う。

 12月10日に運行を開始したのは、イギリス中部889Kmを走る「ウェストミッドランズトレイン」という路線で、年間約7360万人が利用、およそ10年間の契約とのことである。

 ところがそのセレモニーがバーミンガムで華々しく行われた12月11日、日本国内では東海道・山陽新幹線において、台車部分に大きな亀裂が生じていた「重要インシデント」と称されるレベルの不具合が発見された。

 場合によっては脱線事故につながっていたかもしれないとの事で、未然に防げたことは一定の評価に値するのかもしれないが、その対応が問題視されている。JR西日本の運行で博多を出発した後、小倉で焦げた臭いに気づき、岡山では異音を認め、京都駅でも再び異臭がしたにもかかわらず運転を続け、途中で運行会社が変わり、JR東海管内の名古屋での点検で大きな亀裂が発見されて、ようやく運行が中止された。

 ここ数年、ものつくり分野のハード面での偽装や不良を中心に、日本の産業の信頼を損ねる事件や事故が多くなってきている中で、JR東日本が鉄道運行というソフト面で注目を集めただけに、東海道・山陽新幹線での運行の不手際は、非常に残念である。

 東海道・山陽新幹線を運行するJR西日本と東海に対してJR東日本は別会社であり、特にJR東海とは、東京駅でも互いの新幹線車両はレールが繋がっていないため行き来ができないという微妙な関係であることは、外国の方々はおろか、日本でもあまり意識されていないことだと思う。世界の目は当然「日本の鉄道会社JR」として同列に感じられてしまうであろうから、今後のJR東日本の売込み拡大にも少なからず影響が出てしまうのではないだろうか。

 かつて、イギリスのおふざけバラエティー番組の企画で、日本国内を日本が誇る新幹線とスーパーカーで移動したらどちらが早いのかという競争を行ったときの事、新幹線の資料を調べている最中に「2分の遅延」という言葉を見つけたイギリス人出演者二人が顔を見合わせ、「2分って遅延っていうのか」とびっくりし、定刻通りに終着駅に着いたことにさらにびっくりしているという映像が流れた。その時は冗談半分だと思っていたのだが、実際にイギリスでは定刻通りに列車が動くことの方が珍しく、連日遅れる鉄道に対し通勤客が抗議運動を起こしたこともあるということを知り、逆に驚いてしまった。

 かつての日本人は真面目で勤勉な国民として、世界で評価されてきたはずであるが、近年ではすっかり真面目さも勤勉さも失われてきていると危惧されている。

 しかし、日本では当たり前と思っていることでも、他の国からみれば秀でていることはまだまだあると信じたい。欧米に憧れ彼らを見習うことも大切なことではあるが、自分たちの強みも認識しなおして長所を伸ばし、世界に貢献していくことが大切ではないかと思う。