月刊ライフビジョン | 社労士の目から

5年ルール(無期雇用転換)は有効か

石山浩一

 平成30年4月1日から有期雇用労働者が契約更新を5年以上繰り返した場合、本人の申し出により無期雇用に転換できるという制度が5年ルールである。

有期雇用労働者の半数以上が現状維持を希望

 平成28年度の非正規雇用労働者は男性648万人、女性1367万人の合計2015万人で、37.5%と高い状態が続いている。非正規労働者の大部分が有期雇用であり、3か月や6か月、長くても1年毎に契約を更新しなければならず雇用不安がつきまとう。その雇用不安の解消を目的とした5年ルールだが、非正規労働者への調査では必ずしも無期雇用を望んでいないように感じられる。

○ 非正規の雇用形態についた主な理由(実数単位は万人)

                     男女計(実数)    男(実数)     女(実数)

・自分の都合の良い時間に働きたいから 27.8%(523) 26.1%(153) 28.5%(369)
・家計の補助・学費等を得たいから   21.3%(401) 13.6%(  80) 24.7%(320)
・家事・育児・介護等両立しやすいから 12.5%(236)   1.2%(   7) 17.7%(229)
・専門的な技能等を生かせるから      7.5%(142) 12.1%( 71)   5.5% ( 71)
・正規の職員・従業員の仕事がないから 15.1%(285) 24.0%(141) 11.1%(144)
・その他               15.7%(295) 23.0%(135) 12.4%(161)

               総務省 平成29年(2017年)4~6月期平均(速報値)

○今後希望する働き方(短時間・派遣組合員)

                    男女合計     男      女

・この職場で今のまま働きたい     45.9%     27.7%     48.8%
・今の職場で正社員として働きたい     8.4%     22.4%     6.3%
・職場にこだわらず正社員で働きたい  11.2%     22.8%     9.9%
・正社員以外で他の職場で働きたい     2.2%      1.5%      2.3%
・どこでもいいから会社を変わりたい        2.4%              3.6%             2.2%
・希望はなく収入が得られればいい         19.8%            16.4%            20.2%
・その他                                            10.0%              8.7%            10.2%

                       産業別労働組合調査 平成29年1月実施(13,148人)

 総務省調査では男子で24%、女子で11%は正社員の仕事がないから非正規で働いているということから推測すれば、その他は現状の非正規での働きに不満がないと思われる。また産業別労働組合の調査でも、現在短時間や派遣で働いている人が正社員で働きたいというのは男子で45%、女子では16%程度であり、その他は正社員を希望していないと考えられる。こうしたことが背景にあることや、企業や労働組合の宣伝も十分ではないようで転換ルールの浸透が感じられない。

有期契約 ➡ 無期契約≒正社員にはならず

 同一労働同一賃金が叫ばれているが、その主旨は正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差を解消することである。しかし、有期雇用が無期雇用に切り替われば同一労働同一賃金ガイド案の「対象から外れる」との厚生労働省の判断(9月13日の日経新聞)がある。5年ルールによって無期雇用へ転換しても、雇用が保証されるだけであり、厚生労働省の判断は同一労働同一賃金の主旨に反するもといえる。

 同時に5年ルールの副作用として、有期雇用者が無期転換となる5年到達前に解雇する問題が発生している。特に東北大学では3000人規模の教職員の雇止めに対する告発や、首都圏大学でも3000人強の非正規教職員の雇止めに同様な告発がおこなわれているという。

 課題は雇用形態によって労働条件に差異をつけないようにすることであり、そのためには労働基準法第3条「使用者は労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」に雇用形態も適用することであろう。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/