月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

どっちを向いてもカオス

司 高志

カオス1 北朝鮮の核兵器

 まずは北朝鮮の核兵器からだが、その前に考えておかなければならないのが、核拡散の禁止条約。この条約自体がカオス的存在である。核兵器保有国を増やさないということに関しては、条約の趣旨として確かにその通りでいいことなのだが、片やすでに核兵器を保有している国については、すでに核兵器を持っているという既得権を守ることになってしまう不平等条約である。

 核兵器は、双方が持っていれば、片方が使うと相手も使ってくることが予想されるので、どちらも先制して使用することができず、所有していることが核兵器を使わせないという抑止力として作用することになる。

 この構造を逆手にとって、アメリカが核兵器を持っているなら、我々も抑止力として核兵器を持たねばならないというのが、北朝鮮側の論理となる。

 従って、北朝鮮はアメリカに核兵器の保有を認めさせるまでは、核開発をやめないであろうと予測される。アメリカにどうしても認めさせるのに、地上に放射性物質をばらまき、巻き添えが出るかもしれない太平洋上での大気核実験をほのめかしている。本当にやってしまい、爆発後に放射性物質が検出されれば、さすがに核爆弾と認めざるを得まいということなのだろう。

 核兵器の保有が明らかになってしまうと核開発を阻止するための制裁も意味がなくなることになる。先に降りた方が負けという我慢比べになってしまうので、何が飛び出すかわからない、先の読めないカオス状態になっている。本来は核拡散の防止と核の削減はセットで機能しなければならないものなのだ。

カオス2 衆議院解散総選挙

 話は変わって国内に目を向けると、首相は9月28日に衆議院を解散した。日本国憲法第7条には「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。」とある。天皇は、内閣の助言と承認により衆議院を解散したわけであるが、首相の作っている内閣が、国民のために解散を決めているのかが非常に怪しい。条文中の「国民のために」は、具体的に何なのかが規定されているわけでもなく、違反の罰則もない。こうあるべきだという「精神規定」のようなものだ。

 この解散は筆者には、G民党が選挙を有利に戦う絶妙のタイミングと映った。森友は地価値切り交渉の録音が出てきており、財務省の嘘がバレそうだし、加計学園については、文科省で止まっていた審査の結果が出そうな時期だ。防衛省の南スーダンへの自衛隊の日報問題もすでに忘れられている。

 この解散の仕掛けにより、G民党は嫌いだがM進党はもっと嫌いということで、G民党への反対票の行き場がないという必勝の作戦であった。ところが、東京都知事が乱入してきて様相は一変した。新政党を立ち上げたことからG民党への批判票の受け皿ができてしまった。

 さらに驚きは、M進党が最後に捨て身の選択をしたことだった。都知事の新党の公認申請をM進党所属のまま行い、それ以外でM進党から出る候補者は、M進党では公認せず無所属で立候補というまさしくカオス状態の戦術だ。

 すでに指摘したように、M進党にはG民党の批判票の受け皿たりえる実力も魅力もなく単に存在しているのみであるから、解党等の手段を考えた方がよいと思っていたが、結局それも自ら行うことはできず、他者の大きな仕掛けの上で踊らされる形で実現してしまうとは、全く情けないとしか言い様がない。

 今回の選挙は、この原稿が出る頃にはまたサプライズが起きているかもしれないほどカオス状態にあるといえよう。