月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

数字だけでは判断できない悩みについて

音無 祐作

 1964年のモンテカルロラリー。150馬力を超える2000cc、6気筒エンジンを積む、生粋のスポーツカーであるワークスポルシェ911を脅かし、最後に優勝したのは、1000cc、4気筒の前輪駆動のファミリーカー、ミニの改良型であるミニ・クーパーでした。

 馬力が大きくても、生かしきれない氷の路面が多く、ミニ・クーパーがハンドリングに優れているしても、数字では計り知れないジャイアントキリングに、当時のラリーファンたちは驚愕したそうです。

 さて、大手流通会社セブンアンドアイの経営に対し、投資ファンドからは、利益の上がっているコンビニ事業に特化して、スーパーマーケット事業からの撤退を提案されていると聞きました。

 たしかに、数字的には、セブンアンドアイの利益のほとんどはコンビニ事業が占めており、祖業ともいえるスーパーマーケット事業は、バランスシートや売り上げの面では大きな存在であるものの、費用も多く、利益面では苦戦しているようです。

 私自身、家から最も近いし、車で出かけるときの利便性もあり、セブンイレブンは頻繁に利用しますが、スーパーマーケット・イトーヨーカドーも妻の荷物持ちで、ちょくちょく利用します。特に、プライベートブランド商品やコンビニ惣菜は、妻が不在時の食事や晩酌のあてなどで、安くておいしいお気に入りとして、活用しています。

 そんなユーザーの一人としては、この業界がどちらか一方の事業に特化していたら、どうなってしまうだろうと考えます。プライベート商品もコンビニ惣菜も、多くのスーパーマーケットを持つ業態で、規模の優位性を生かした商品開発・原材料調達・加工がなされるからこそ、魅力的な展開ができるのであって、コンビニ事業に特化した場合、いまの多様性が維持できるのでしょうか。

 スーパーとコンビニという、複合企業としてのメリットが検討されたのでしょうか。日々、経営について思考を巡らしている投資ファンドですから、その程度は踏まえての提案かも知れませんが、数字だけの判断で、企業の魅力を損なわないように願うばかりです。

 そんなことを考えながらも青い看板のコンビニまでは50mほど遠いからなあと、いち消費者は数字で悩んでしまったりしています。