月刊ライフビジョン | 地域を生きる

地域の議論はスピーチシャワー

薗田碩哉

 私の住民票のある町田市が公共施設の整理統合を打ち出したことは前々回のこの欄に書いた。市は広報誌を使って大々的に「公共施設再編計画」の宣伝を行い、市内10会場で計画についての説明会を開いた。しかし、会に参加したのは10会場合わせてたったの90人、43万都市の0.02%という誤差にもならないような数である。それでも市は市民の理解を得られたとばかり、年度内には文化施設の存廃を決定すると強気である。

 縮小や廃止のやり玉に挙げられた図書館や文学館の利用者や関係者が黙っているわけはない。さっそくこの計画の中身を読み解く学習会を数度にわたって開き、計画が町の将来像について何のビジョンもなく、財政規模の縮小を錦の御旗に、施設の稼働率や採算性のみを論(アゲツラ)うという乱暴な論理でことを進めている実態を明らかにした。それまでわがこととは思わなかった市民の中にも事の重大さに気付いて、一緒に問題を考えようと人が出て来た。それも「文化趣味」の高齢者ばかりでなく、若者たちからも図書館や文学館がなかったらヤバイという声が上がって来て、高年組を勇気づけてくれている。

 学問とアートをこよなく愛し、文化人?をもって任ずる筆者がこの仲間に加わったことは言うまでもない。学習会を組むにあたって、筆者は論議の場にひと工夫することを主張した。講師を招いてご意見を承り、最後にちょっとだけ質疑応答という学習会の定番ではなく、もっとみんなが関わり合って、誰もが自分の疑問と主張を披露し合えるような参加型学習会を目指した。1回目はワールドカフェ方式にして、5,6人の小グループでメンバーを入れ替えながら議論を重ね、黙って聞いている人など誰一人いないという賑やか討論会。2回目はロールプレイ方式で、市側と市民側に別れ、お互いの主張をぶつけ合う模擬討論会。市長役も部長役も仲間内だから緊張感はなくて笑いも出るが、市がいったい何を考えているかを浮き彫りにすることはできた。

 3回目は11人のスピーカーが次々立って1人5分ずつ思いの丈を述べるという連続演説会、名付けてスピーチ・シャワー(因みにshowerには質問や苦情を降り注ぐという意味がある)。ロンドのハイドパークのスピーカーズ・コーナーをイメージした。4分で予鈴、5分経つとチンチンチンと鈴が鳴るので、余計なことは言えない。いつもは冗長でまとまらい話をしがちな人も、かっちり時間を守ってくれたのが面白い。よく考えて話せば5分でも結構なことが言える。次の4回目も連続スピーチだが、大きな円を作って座り、あちらからもこちらからも立ち上って話すという方式で、これも楽しかった。

 さまざまなメンバーがそれぞれの考えを出し合い、それらが互いにずれたり、ぶつかりあったりしながら一つの方向が見えて来る―、これが民主主義というものだろうし、こうした開かれた議論によって培われるものこそが「公共」なのだと感じた。「まちだ未来の会」と名付けたこの会は、施設再編計画への市民の参画を求めて市議会への請願署名を集めている。最終的には市民の手で市の計画への対案を作ることをめざしている。

【街のイベント帖 30】 公共施設の再編を巡る問題を論議する学習会は、みんなが参加して、深みがあって楽しく話せる討論会にすることを目指した。

市側と市民側の対決  ↓ ロールプレイによる討論会

 ↓ 次々と演者が交代して5分間スピーチを行う「スピーチシャワー」

 

まちだ未来の会  ブログ  https://blogs.yahoo.co.jp/machida_huture_625

         ツイッター  http://twitter.com/machida_future/


薗田碩哉(そのだ せきや)
 1943年みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。http://www.sansanclub.jp/ NPOさんさんくらぶ 理事長