月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

少子化対策で想うこと

渡邊隆之

 少子化対策の話題が賑やかだ。日本は第二次ベビーブームの1973年の年間出生数が209万人、合計特殊出生率(以下出生率と略)は2.14だった。以後、年間出生数も出生率も徐々に下がり、2022年では年間出生数77.1万人、出生率も1.27程度となっている。加えて総人口の4人に1人が65歳以上である。多死社会に伴い今後急激な人口減少が予想される。

 国も働き方改革など子育てに配慮した法整備を進めてはいるものの、決定打が見つからない。もちろん少子化問題は日本だけの課題ではなく、社会が成熟した先進諸国も頭を痛めている問題である。

 ちなみに、出生率の高い国は、圧倒的にアフリカ勢が多い。2020年の数値で見ると、ニジェールが1位で6.73、2位がソマリアで5.88、3位がコンゴで5.71である。その国の家族慣習の影響もあるのだろうが、一瞥する限り紛争地等治安の悪い国・平均寿命の短い国・新生児死亡率の高い国というのが筆者の印象である。

 ところで、政府は異次元の少子化対策として出産育児一時金の増額などを掲げるが、その財源を示せず、統一地方選への影響を考慮し不明瞭な答弁が続く。まず地方の議席確保ありき、この国の先のことなど「知らんけど」というのが政府や与党の考えなのだろうか。

 元首相の麻生太郎氏が「少子化対策もしっかりとやっていきます」と発言されていたが、50年かけて改善されなかった問題を、現在80代の方に言われてもねえというのが率直な感想で、「まず自分の目で検証できないでしょう」と突っ込みを入れたくもなる。

 人口減少はCO2排出量が減るので地球全体の環境負荷は減るが、反面、国力や生活インフラも脆弱になり、国防上も問題がある。そこで、これらの問題をどう調整していくか知恵を絞りたいところである。

 まずは、いままでの政府の子育て政策を、現場に負荷をかけずに分析し、PDCAサイクルで改善を図りたい。すでに法律があるのであれば、その趣旨の範囲内で通達等によって弾力的な運用を望みたい。職場環境のみならず保育体制への目配りも必要である。

 少子高齢化では、若者vs高齢者、独身者vs子育て世代という対立構造がステレオタイプとしてあるが、主にライフイベントにおける結婚・出産・教育にかかわる費用を誰が負担するかという点が争点となる。フィンランドでは2000年以降出生率が2に近づいたが、幼稚園から大学院までの学費と給食を無料にしている。高福祉高負担であり、国民負担率は56.4%である。日本の国民負担率は46.5%とのことだが、潜在的国民負担率は56.7%といわれる。国の収支について、予算が何に使われているのか詳細に吟味した方がよさそうである。

 子どもの学習権を十分に担保すべきとするのは、子どもの人格形成、生存権(憲法25条)に資するだけでなく、国民主権のもと将来この国のあり方に決定力を有する存在だからである。国民主権主義を維持し、長期的展望に立ってこの国の将来を考える政治家か、ただ議席を得たいだけの政治家なのか、統一地方選等では有権者はよく見極める必要がある。

 また高齢者については、人手不足にもかかわらず年齢で一律に賃金が下げられている。健康であるならば、正社員・派遣社員・アルバイトという区分で賃金格差を設けるのでなく、同一労働同一賃金でもっと稼いでいただいたらいかがであろうか。

 さらに安定財源としての消費税引き上げを財務省は匂わすが、インバウンド需要があり、日本の商品やサービスが割安だと爆買いする外国人観光客に対し、更にTAXフリーのおまけまでする必要はあるのだろうか。この国の環境整備にご理解をいただいたうえで本来の対価をお支払いしていただいてもよいのではなかろうか。

 本来は国会や地方議会にもっと子育て当事者世代の議員を送り込み自由闊達な議論と決定を望みたいところであるが、実現に時間がかかる。まずは、明石市の取り組みなども参考にしつつ、それぞれがそれぞれの立場で各方面に声を上げていきたいものである。


 ※合計特殊出生率とは、「15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で、1人の女性がその年次の年齢別 出生率で一生の間に生むとしたときの子供数に相当する。

※※潜在的国民負担率とは、将来的に国民負担となる可能性がある財政赤字の国民所得に対する割合を国民負担率に加えたものをいう。