月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

どうする自動車

音無 祐作

 また、トヨタがやってくれました。

 カーメーカーのトヨタ自動車が、カスタムカーの祭典東京オートサロンで、1980年代に登場した人気のスポーツカー「AE86」をエコカーに改造した車両を展示しました。

 「AE86」とは、商品名で言うとスプリンタートレノとカローラレビンのことですが、漫画「頭文字D」という作品で人気が爆発し、今も高額で取引される車です。

 漫画の中では、主人公のトレノのドアに「藤原とうふ店(自家用)」と描かれているのですが、トヨタの展示車には「電気じどう車(実験用)」「水素エンジン(実験用)」と描くという凝りように、ファンの間では喝采を博しています。

 昨年2月の小欄で、学生や町工場による電気自動車への改造や、欧州でのコンバートEVなどの話をしましたが、まさかトップカーメーカーから、このような提言がなされるとは、驚きました。

 豊田章夫社長は、「新車をEVなどにするだけでは、2050年のゼロカーボンは達成できない。誰かの愛車にも選択肢を残すことが重要となる」と語ったそうですが、今後はさらに既存のクルマに衝突安全装置や衝突被害軽減ブレーキなどの安全装備を追加するなどという展開も期待したいところです。

 欧州では、電気自動車一択のような潮流であり、既に内燃機関の開発停止を表明しているメーカーもあるようですが、電気の生産が完全に再生エネルギー由来などとなるまでは、電気自動車だからと言って、事実上ゼロカーボンとも言い切れません。

 日本国内では、電気自動車の普及の遅れから、経営が苦しくなって廃止される充電スポットが少なくないと聞きました。充電スポットが減少すれば、利便性の問題から電気自動車の普及も進まない、というジレンマに陥りかねません。現在の電気自動車オーナーにアンケートした結果、半数近い方がハイブリッドカーなどの内燃機関を積んだ車に戻したいと答えているという話も耳にしました。

 電気自動車などの普及を促進していくとしても、既存の内燃機関の車などをどんどん廃車していくとなると、プラスチック部品や内装材などの再利用も課題となってきます。

 電気自動車にしても、普及とともに、バッテリーやモーターの寿命や、希少金属の確保や再利用も大きな課題となっていくことでしょう。ゼロエミッションの実現には、まだまだ超えなくてはならない壁が多いようです。京オートサロンでは、この他にもマツダが、ロータリーエンジンで発電をするプラグインハイブリッド車を展示するなど、新たな可能性を模索する動きもありました。

 温暖化対策を考えた、脱炭素化を目指す以上、いずれは化石燃料を燃やしながら走るような車は、無くさなければいけないのでしょうが、それまでの変革期には、車を作る側にも、ユーザー側にも難しい選択や対応が求められそうです。