月刊ライフビジョン | 地域を生きる

行政の「詐術」に抗する

薗田碩哉

 わが町田市の市民運動の今年の課題は、市の進める「公共施設再編」と言う名の文化施設削減計画に抗することである。この欄で取り上げてきた鶴川団地の商店街にある小さな図書館を廃止する計画への反対運動はいよいよ正念場だし、全国でも珍しい版画美術館の理不尽な改修計画も、反対訴訟に敗訴して新段階を迎える。4月には全国的に統一地方選挙が行なわれるが、町田市はちょっとずれていて市長選も市議選も1年前に終わり、現市長は反対派を辛くも破って政権の安泰を勝ち取り、自信をもって改革(市民派に言わせればトンでもない改悪)を実行に移す年なのである。

 鶴川図書館については、我々の反対運動への対応策として、市は当初の完全廃止を引っ込めて「代替施設を残す」という方針を打ち出してきた。これだけでも市民の中には「図書館は残る」という安堵感を抱いた人が少なくないのだが、問題はその中身である。図書館というのはただ本が並んでいればいいというものではなく、①数多の本がきちんと分類整理され(当然にその役を担う専門職としての司書が配置され)、②中央図書館を核とする町の図書館ネットワークに接続されている(だからこそ鶴川にない本も注文しだいですぐに手にすることができる)という2条件を欠くことはできない。ところが市の言う「代替施設」案はこの両条件を無視した単に「本の並んでいるサロン」みたいなものを残すということで、公立図書館としては、まさに廃止そのものなのである。

 市はこのほとんど詐術と言うべき「代替施設」案を飾り立てるために「図書機能のあるコミュニティ施設」というコンセプトを打ち出した。そのためにコンサルタントを雇って法外な委託費を払っている。それは、今ある図書の幾何(いくばく)かを残し、空いたスペースは市民の集会施設にして、お茶を飲みながら本を読んだり話しあいもできるコミュニティ・サロンにしようというのである。その運営は「市民協働」の名のもとに民間団体に丸投げ、一定の運営費を出しましょうという。これも多くの市民には結構な話に聞こえてしまう。今の図書館はゆっくり座るところもないし、おしゃべりをしたら叱られる。気楽なサロンになれば使い勝手もよくなるし、本も置いてあるなら結構ではないかというわけだ。

 しかし、図書館愛好者にしてみれば、ただ適当に本が並んでいるだけではその辺の喫茶店でも気の利いたところはやっているし、古典もあればベストセラーもあり、新聞雑誌もそろっていて、お堅い本から実用書まで体系的に整理されていて、調べたいことがあれば司書がていねいに対応してくれるレファレンス機能があるのが図書館なのである。鶴川図書館の場合、商店街の一角にあって周りには喫茶店も集会場所もあるのだから、狭いところに交流スペースなど作るよりも、周辺のお店を活用するのが地域振興にも資するというものである。ただ、残念ながら図書館に日ごろから親しんでいる市民は圧倒的に少数派で、多くの市民は本が並んでいる交流サロンで結構じゃないのと思ってしまう。図書館は町内会などの地域団体にこの「似非図書館」プランを触れ回り、それを聞いて「図書館がますますよくなる」と受け止めた住民も少なくないのである。見事な詐術ではないか。

 過日、われわれ「鶴川図書館大好きの会」と図書館との話し合いがやっとのことで実現した。冒頭から「図書機能のあるコミュニティ施設」なるコンセプトが争点になり、高校の国語の教師をされているメンバーが「図書館機能」から「館」を外した「図書機能」なんてものはそもそも日本語になってないと嚙みついた。さらに、この方策が図書館協議会はじめ、公式の検討組織できちんと論議されていないことや、これまで市が市民を集めた図書館問題のワークショップなるものを何度も開きながら、そこでの論議を何一つ組み入れずに(市民集会は単なるガス抜きにされている)当初の計画をゴリ押ししてきたことを糾弾する発言が相次いだ。図書館担当者は同じ発言を繰り返して逃げ回るのみ。お役人はこういうのが仕事と心得ているのだろう、カエルの顔に何とかみたいな、まことに非生産的な議論に疲れ果てた。

 市民の側も文句を言うばかりでなく建設的な代案を用意して提案してきた。財政が厳しいというなら司書を非常勤職員中心にして人件費を節約するとか、図書館活動を活性化するために市民側もさまざまな協力(いわゆる市民協働)をするとかして、図書館ネットワークから外さない運営を現状よりも安上がりに実施できることを数字で示し、他市での同様の事例を調べて説明してきた。しかし、市は市民案を一顧だにすることなく、ひたすら市の上層部が勝手に決めた「再編計画」を押し通そうとする。どうやら財政の問題は口実で、お国の指示に従って「公共施設再編」(という名の市民サービスの切り下げ)の実を上げることそのものが至上の目標になっているのだろう。

 鶴川図書館の廃止は既定の路線としても、今日明日に無くなるわけではない。市のプランでは2年をかけて「本もある市民サロン」の運営先を探す(育てる)ことになっている。つまりあと2年は公立図書館が存続するわけだ。そこで我々としては「まともな図書館があるからこそできる」多様な活動を積極的に追及し、周辺の市民を誘い込んでいきたいと考えている。市民には子どもから高齢者まで、それぞれの生活課題があり、その中には図書館があるからこそ実現できることが多々あるはずだ。それを幅広く追及して「役に立つ図書館」キャンペーンを広げることが急務と言える。図書館が大好きな人、図書館がないと困る人を一人でも増やし、図書館を支える市民力を伸ばしたい。その上で次なる市長選・市議選を戦い、市政を一変させることが今後の市民運動の目標である。


【地域のスナップ】 どんど焼きに願いを込めて

 すっかり枯野になった田んぼで「どんど焼き」
を行った。正月飾りを集めて燃やすのだが、合わ
せて、半紙や画用紙に今年の願い事を書いて一緒
に燃やす。炎とともに願い事が天に届くようにと
いうわけだ。世界の平和や健康や愛情を求める願
いの中には受験の成功を祈る言葉もあった。

[地域に生きる 2023年2月]


◆ 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。