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屋根材のプロからエコ・エネルギーの話

 東京都が2025年4月から、新築一戸建て住宅に対して、太陽光パネルの設置を義務化する基本方針を発表しました。義務化とはいえ、すべての住宅が対象になるとは限らず、購入者ではなく、大手住宅メーカーが義務化の対象との事ですので、果たしてどの程度の義務化となるのか、現時点では詳しいことはわかりません。

 この他にも、2024年には電気自動車レース『フォーミュラーE』の都内開催誘致を目指すなど、脱炭素社会へ向けた取り組みが打ち出される一方で、慎重な意見もあるようです。

 そもそも、東京の環境で、真夏の日中はともかく、年間を通して、果たして効率はどうなのか。パネルの寿命や使用後の廃棄の問題、余剰電力を他の時間帯に回すための蓄電池の必要性と、その寿命なども問題視されています。

 しかし、この夏の暑さを思うと、電気代をあまり気にせず、日中にエアコンを使える環境は羨ましいものですし、火力発電所での二酸化炭素排出が少しでも抑えられることを考えると、温暖化対策には、有効なのかもしれません。

 屋根材に関する仕事に携わったことのある私としては、先述したパネルの寿命などの問題以外に、気になる点があります。

 多くの戸建住宅で使われてきたコロニアルやカラーベストなどと呼ばれるスレートという素材。主にコンクリートなどと繊維材で造られており、価格も安く軽量であることから、重宝されています。

 しかし、このスレートの屋根瓦は、美観や耐候性の問題から、10年程度に一度の再塗装が推奨されています。また、屋根材自体の寿命も20年から25年とされています。

 そのこと自体、あまり知られていなく、塗り替えもせず、30年以上そのままで、カビや藻が生えている屋根は、そこかしこに見うけられますが、劣化して雨漏りでもすれば、大変なことになります。

 屋根に太陽パネルを設置する場合、このスレート屋根材のメンテナンス性も忘れてはいけないと思います。

 問題点をあげてばかりですが、けっして、太陽光発電にアンチなわけではありません。先に申した通り、真夏の日中にエアコンを気兼ねなく使える生活には憧れますし、地球温暖化をストップさせることには、非常に関心があります。将来電気自動車でも買うことができたならば、是が非でも自然エネルギー発電は導入したいと考えています。

 ただ、何年経てばコストをペイできるだとか、売電収入がこれだけ見込めるだとかいった、美辞麗句ばかりを信用し、期待してしまうと、ランニングコストや想定外のトラブルなどで、こんなはずじゃなかったということになるので、注意した方が良いと思う次第です。

 今回の方策をきっかけに、太陽光パネルや蓄電池にも、新たな優れた技術が誕生し、さらなる効率化が図られるかも知れませんし、今後も続くかもしれない在宅ワークや、店舗併用住宅などの方にとっては、特にありがたいかもしれません。

 しかし、温暖化対策に待ったなしの状況とはいえ、いきなり行政として「新築戸建て住宅に義務化」というのも性急すぎるような気もします。義務化という北風作戦よりも、リスクを明らかにしたうえで、有益性をもっとPRしたり、補助金や控除といった魅力を拡充したりといった太陽作戦の方が、安心して受け入れられるような気もします。

 また、東京には中央防波堤周辺などの湾岸エリアや東京湾という広大な資源もあります。これらを活用して、巨大な太陽光発電所や、風力発電などを今以上に進めるのも良いのではないかと思います。

 将来、「フォーミュラーE東京大会で使用する電気は、すべてここ東京の自然エネルギーで賄われています」と、アナウンスできたら、素敵ではないでしょうか。