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少子化多死社会と日本の今後を考える

渡邊隆之

 7/10の参議院議員選挙を直前に控え、主要9党の討論番組を視聴したが目新しいものはなかった。ウクライナ侵攻に伴う、中国・ロシアの脅威を感じてか、新聞では与党自公政権が改選過半数を獲得するのではとの見通しである。野党は国民民主党のトリガー条項の件が記憶に残るも、ほかは印象が薄い。争点も主張もぼんやりしていて、投票先の選択に悩むところである。憲法改正の争点もあるようだが、以前の議論から進展も見えない。

 参議院は良識の府と言われる。であれば、この国の国難をどう乗り越えていくのか、100年後を見据えて、まずは5年、10年先のビジョンと課題の克服方法を各党には明示していただきたい。特に、少子化問題と絡めて、この国の諸問題について討論すべきことは山ほどあるはずだ。

 ロシア軍のウクライナ侵攻、中国の新疆ウイグル族の弾圧等で見聞きした“ジェノサイド”という言葉。少子化対策にほとんど手をつけてこられなかった日本政府の無策ぶりはある意味自国民に対するジェノサイドなのではないか、との厳しい意見もある。

 日本の総人口を検索してみた。2022年6月1日現在の概算値で、1億2493万人(前年同月比80万人減少)である。ちなみに“総人口”は“日本人人口”ではない。“総人口”は国内滞在期間が3か月を超える外国人も含むからである。

 2022年1月1日現在の確定値では日本の総人口1億2530万9千人(前年同月比75万9千人減)に対し、日本人人口は1億2263万8千人(前年同月比62万2千人減少)である。

 参考までに、2001年の総務省の総人口の長期推移予測では、2050年には9515万人(65歳以上は39.6%)、2100年には3770万人から6407万人になると予測されている。

 自公政権の下、不妊治療への保険適用や出産育児一時金の増額が決まり、今回の政見放送でも、教育費の無償化について公約に掲げる政党も多い。

 しかし、子育てに直結する資金のみを拠出すれば済むという近視眼的な対策で果たして十分なのだろうか。また、その拠出金の財源をどう確保するのだろうか。2022年度の国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合計)は、2022年度は46.5%になる見通しとのことである。高齢化率が高くなる今後は、さらに増えるだろうと推測されている。

 思うに、人生100年時代と謳いつつ、膠着した定年制の下、働く意思や体力があるシニア世代が安い時給で働かざるを得ない状況も改善した方がよいのではないか。細田衆議院議長は「私なんか月100万円しかもらっていない」と地方で演説していたが、一度、時給900円台で働いていただいて、現在の労働環境の異常さを体感し、シニア世代が沢山稼いで喜んで税金等を納めてもらえる仕組みを実現してほしいものである。現に高度の知識と経験を持ったシニアが中国で厚遇され高い給料を支給されているという話はよく耳にする。

 筆者が常々不思議に思うのは、この国の一人当たりのGDPがなぜ上がらないのかということである。識字率は高いし、遵法精神もある。この国のビジョンが場当たり的なため、企業も積極的な設備投資を控えるし、新規就労者も大学等で学んだ専門知識を職場で十分に発揮できない。また、企業内でも人を育てるという意欲も十分でない。

 国民負担率が高くても、それが国民へ還元される実感があれば納得感もある。フィンランドのマリン首相は貧困家庭でも国費により大学院まで学ぶことができ、今度はその知見を国に還元するといういい循環が生まれている。日本では税金や社会保険料が何に使われているのか不信感が強く自己防衛として貯蓄に回ることが多い。あの復興税は果たして有効に活用されているのだろうか。

 人への投資は、若年者についてだけでなく、事情により現在活躍できない人たちにも向けられるものであってほしい。現在36歳のフィンランドのマリン首相は34歳の時にレジ係だった。「社会の強さは最も脆弱な人たちの幸福によって測られる」という彼女の言葉には重みがある。

 ジリ貧を強要され仲間が減っていく社会を容認するのではなく、どう社会を好転させていけるか、有権者として賢く立ち回れるよう、引き続き候補者の主張に耳を傾けたい。