月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

声を聴く経営へ

音無 祐作

 ある経営者曰く、「苦情ハガキは宝の山」。感謝やお礼のハガキやアンケートも大事だが、本当に大事なのは自分たちでは気づきにくい、「悪いところ」を指摘してくれる苦情であり、それはカイゼンの源泉だとのこと。なるほどもっともな話だと、感心しました。

 近年、株主総会で重要な提案を提出するファンドが増えてきているようです。

 先日、とある企業で現在の社長の取締役再任を否決する株主提案があり、それを受けてなのかは明らかにしていませんが、総会前に再任案を取り下げるという顛末が報道されました。

 事前に株主側が提出した資料によると、会社の制服を着た社員が、社長の自宅庭を掃除している写真が公開されていたり、社長とその周囲による私的な取引の存在が指摘されていたようです。事の真偽は明らかではありませんが、過去にドラマで見たようなことがいまだに行われたりするのかと思うと、驚きを飛び越えて笑ってしまいました。

 このような疑惑を、個人株主が知ることは容易ではありません。例え機関投資家でも、そのような調査能力を備える組織はなかなかないでしょう。この記事に対してネットの書き込みの中には、このような調査までする機関投資家が恐ろしいというような意見も散見されましたが、もし仮に事実だとすれば、多くの投資家にとっても由々しき事態です。

 日本では、このような機関投資家に対し、アクティビストだとかもの言う株主だとか、ハゲタカなどと呼んで警戒しますが、本当に株主の信頼を裏切るような経営が行われているとしたら、それを摘発する調査や指摘は非常に大切な情報の筈です。

 株主ばかりではありません。以前、話を聞いたある企業では、展開の一部とはいえ、一般ユーザーを対象にした商品を販売しているにもかかわらず、お客様相談窓口のようなものを設けていなかったり、社員が内部監査室長に粉飾の疑いを指摘しても、「それを聞いて私にどうしろっていうんだ」と、まったく取りあってくれなかったというような話を聞いたこともあります。

 今後の人口減、少子高齢化の進行が進む中で、経営者が熟慮すべき要素のひとつである人事労務管理について、自ら組織し、手弁当で集まって意見を集約、具申する労働組合という組織は、経営者にとって同志的な存在だと思うのは、私だけでしょうか。

 物価高に円安や人手不足など、ここ30年近く企業があまり考えていなかった危機が訪れようとしています。コンプライアンスや環境保全への対応、デジタル化など新たな課題も次々と現れるなかで、企業経営には、これまでよりも更に広い知識や知見が求められてくることでしょう。

 会社を私物化するような行為が駄目なのはもちろんのこと、企業人には株主、顧客、従業員など、全ての利害関係者の声や社会の動きに、今まで以上に耳を傾け、次々と現れる問題を解決すべく、研鑽を重ねる必要が出てくるような気がします。