月刊ライフビジョン | off Duty

ここにも侵略者たち、か

曽野緋暮子

 私の住む田舎でも手洗い、マスク、ソーシャルディスタンスで自己防衛すれば外出OKの雰囲気になってきた。旅行も日帰りなら許容範囲になりつつある。

 ストレス溜まりまくりだと言うN子とランチをすることになった。我が家では来客がない限り行くことのない!「回転寿司」に入った。回転寿司各店の進化はテレビで知っていたが、3年振りの私は戸惑うばかりだ。メニューは印刷物でなくタブレットで注文する。サイドメニューの麺類以外はレーンを走る新幹線が運んでくる。皿を受け取って食べようとしたらN子が「返却して。」新幹線が停まったままなので慌ててタブレットで返却指示をした。以前は食事が終わると店員さんが皿の枚数を数えに来ていたが、タブレットで会計を指示して、レジに行けば決済できる仕組みだ。テレビで見るだけだった回転寿司の進化を実体験した。

 さていよいよ、肝心のN子のストレス発散タイム。新しいご近所さんとの「トラブル未満」の話だ。

 市の空き家バンクに登録されていたN子の隣家が売れた。敷地内に広い畑と築60年超の家屋がある。当家の主が亡くなり数か月に一度程度、他県に住む娘が来て管理していて約20年、畑は草に覆われた空き地になっている。空き家バンク登録しても中々売れなかったが数回の大幅値下げ後、昨年10月買い手がついた。

 買ったのは70代後半の、市内に住むご夫婦だ。アパート暮しの次男一家と同居するのに十分な広さの住居と、自宅前で畑仕事ができることが決め手だとか。建築工事関係の経験があるご主人が友人に協力して貰いリフォームし、3月から住み始めると言う挨拶だったそうだ。田舎の古民家をリフォームして住むってテレビでよく見かけるなあと軽く聞き流したN子だったが、ストレスはここから始まった。

 昨年11月頃から、70代後半の男性が4.5人集まり、ドラム缶焚火を囲んで歓談後仕事開始。家のトイレがあるはずなのに、N子宅との境界付近でタチションをする。コンビニのレジ袋が側溝に落ちたまま。小屋の取り壊しや地面を掘り起こす作業では境界シートも張らないので、N子宅の窓から埃や壁土が入ってくる。「お隣さんだから。」我慢しようと思ったが、数日間が限界、シートを張るようにお願いした。

 仲間内のスキマ仕事らしく、休みも全くの不定期。納期はあってないようなものらしくダラダラと作業が続き、今年の5月になっても完了しない。おまけに4月頃から突然、畑作りが始まった。大きなコンポストを設置。土を掘り起こし、腐葉土や鶏糞を撒く。畑の傍にまだ使われていない「牛糞」の袋を見かけ慌てた。

 畑を楽しむのは良い、牛糞、鶏糞を混ぜれば良い土になることは理解するが、住宅地で牛糞、鶏糞を撒かれるとその悪臭被害は半端ではない。一度撒くと当分悪臭は消えない。意を決して牛糞、鶏糞など悪臭の素になるものは使わないでほしいとお願いに行ったところ、「この土地は畑ができると言うことも楽しみで決めました。市役所の空き家バンク担当の人も農業委員会の人も家の傍で畑ができますよ。しっかり農作物を作って下さい。と言われました。それに悪臭って人それぞれでしょ。野菜や魚の臭いが悪臭と思う人もいるはずですから。」と極端な話をした上で、いかにも市役所から許可されていると言わんばかりの反撃だったそうだ。

 N子はここで引き下がれないと思い、「市の環境条例に悪臭の項目もあります。いざとなったら悪臭を測定して貰うこともできますが、ご近所で大ごとにしたくないので予めお願いにきました。」と、これからお隣さんになるのだからと自身に言い聞かせつつ引き上げたそうだ。

 確かに、市役所も農業委員会も空き家や耕作放棄地に手を焼いているのはわかるが、一般市民の細やかな平和を壊すのは止めてほしいよね。

 面倒くさいお隣さんとのバトルは、コロナ同様に手強いみたいだ。N子には「毒を吐きたい時はいつでも声をかけてね。」と慰めの言葉しかなかった。