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一切の兵器廃絶の夢を追いかけよう

音無 祐作

 ウィンタースポーツのスキー、フリースタイルのモーグル競技。1990年頃は、ジャンプして空中で舞うエアの技は、数種類程度しかありませんでした。中でも難易度が高いとされていたのは、水平に360度回転する「ヘリコプター」という大技で、多くのファンを魅了していました。しかし近年ではそれすらも、大きな大会では通用しない基礎の技となり、より複雑な、縦回転も交えたアクロバティックな技を繰り出さないと勝負できないほどに、選手たちの技量が発達してきました。

 それはフィギアスケートや体操など他の競技でも見られます。スノーボードハーフパイプで縦に3回転、横に4回転するトリプルコーク1440も、現時点では平野歩夢選手しか操れないようですが、いずれライバルたちも次々と会得してしまうことでしょう。

 そんな平野選手、北京オリンピック金メダル獲得のインタビューでは、「夢のひとつが叶ったかなった」と語っていましたが、残りの夢は何なのでしょう。きっともっと大きな夢を持っていることでしょう。

 ロシアのウクライナ侵略が続く中、思うように進軍できなくなったロシア軍が、生物・化学や核兵器を使用するのではないかと懸念されています。

 生物・化学兵器や核兵器などは「非人道的兵器」と呼ばれますが、それらを「非人道的」とするならば、その他の兵器は「人道的」なのか、とても不思議に感じます。

 相手と自分の意見がそぐわない、相手の持ち物を奪いたいといって手を振り上げれば、それは銃であろうが刃物であろうが、ときには拳ですらも、「非人道的兵器」となりうるのではないでしょうか。

 ウクライナの抵抗が奏功していることから、ヨーロッパなど他の国々、そして日本でも軍備拡張論が勢いづいてきそうな気配です。しかし、こんな状況だからこそ、兵器による争いのない世界、あるいは「国家が人道に悖る武器を持たない世界」を希求する、大きな夢を持ってはどうでしょうか。

 口惜しいですが航空機、船舶、さらにはインターネットなど、さまざまな技術が戦争によって進歩し、人々の生活向上に貢献してきたのも事実です。「戦争は決してなくならない」「人のいるところに争いは必ず起こる」などとよく聞きますが、すでに十分に成熟したはずの人類は、暴力と破壊による決着を終焉させる時期にあるのではないでしょうか。

 核兵器は抑止力である、核兵器を持って睨み合っているから大きな戦争は起きなかった、という幻想も、大国に狂った指導者が現れることは抑止できません。

 日本の私たちは憲法9条により、ほんの一時期とはいえ武器を持たない国を実現しました。あっという間に頓挫してしまいましたが、可能性は見いだすことができました。

 市民一人一人が核兵器廃絶の声を上げることはもちろんですが、その先に国際連合が、一切の兵器廃絶という大きな理想を掲げてはどうでしょう。

 核兵器や生物・化学兵器廃絶は、その途上でしかないとすれば、この先の将来に、「あの頃は核兵器廃絶運動も苦労したね」「いまではそんな危険なもの、無くて当たり前だけど」などと語れるときが来るのではないでしょうか。

 そのための方法や工程はまだ見いだせないかもしれませんが、すべての兵器廃絶という大きな理想に心を向けて生きようと思います。