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いまいちど国連憲章の意味を考える

渡邊隆之

  2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻から1か月が経過した。ウクライナ国民の4人に1人が国内外に避難を強いられる異常事態である。国際司法裁判所や国連の即時停戦の呼びかけにもロシア政府は耳を貸さず、日々死傷者数が積み重なっていく。

 ロシアは国連安保理の常任理事国であり、本来ならば国際平和・安全の維持のため責任を果たすべき立場にある。しかし、その本来の責務を放棄し、かつ、国際平和・安全を破壊する核兵器使用をちらつかせ「解放」という名のもと他国への侵略行為に及んでいる。

 もっとも、ロシア(旧ソ連)の帝国主義的な侵略行為は今に始まったことではない。過去にはアフガニスタン・フィンランド・ポーランド・ジョージアなどへの侵攻もあった。わが国に対しても、広島・長崎の原爆投下直後に突如日ソ不可侵条約を破って参戦し、樺太や千島列島の占領、ポツダム宣言受諾後の日本軍捕虜のシベリア抑留、満州黒川開拓団で起きたソ連兵への未婚女性性接待の悲劇等、今でも怒りが収まらない事案は沢山ある。

 旧ソ連で唯一の大統領だったゴルバチョフの時代には西欧諸国との対話を重視し、核兵器削減にも積極的に取り組むなど国際平和実現に向け光明が差していた。しかし、ソ連崩壊を加速させたのではとの指摘もあり、「強いロシア」を求めプーチンを支持する層も一定数存在する。

 今回の侵攻でプーチンはウクライナに対し中立化・非軍事化を要求した。確かに、ロシアには天然資源が沢山あり、穀物の産出量も多い。しかし、国土は広いが寒冷地も多く、また大量の兵器を保有するロシアに対して他国からの侵攻の危険性はさほど大きくないのではないか。とするならば、ロシア国内の政治や経済での不具合から国民の目を逸らさせ、ロシア首脳部の保身のための戦争に思えてならないのである。ロシア国内での過度の言論統制や政府批判者の殺害なども同一線上の行いと推察する。旧ソ連の国々が独立後次々とNATOに加盟したのは、理不尽な理由で侵略と殺戮を繰り返すロシアへの備えとしか思えない。

 1994年12月のブダペスト覚書では、英米露の共同署名のもと「ウクライナが核を放棄し核をロシアに移転するに代わりに、ロシアはウクライナに手を出さない」とされた。NPT(核拡散防止条約)に加盟し核兵器を放棄したため結果としてウクライナは甚大な被害を受けることになった。ロシアの蛮行は許しがたいが、ウクライナの核兵器放棄と国の安全保障に共同署名した英米は、事前にもっと紛争回避に努めるべきだったのではないか。

 国連憲章の国際平和・安全の維持の観点からすれば、核兵器禁止条約が採択された以上、核保有国も核兵器削減に向けて積極的に協議を進めるのが筋である。NPTの目的は核保有国を優遇するためではなく、これ以上核兵器保有国を増やさず、核の脅威を増大させないことではなかったか。

 今回、ロシア軍は国連憲章の趣旨に反し、数多の非人道的行為を行った。ゆえに、ロシアは安保理常任理事国から除外されるべきだし、戦時補償にも応じなければならない。ロシア軍の一連の国際法規違反をリスト化し、国連改革や関連条約の改正に着手しなければならない。西側諸国による経済制裁や7千人を超すとされるロシア兵の遺体の帰還を契機に、真実を知ったロシア国民が自由に声を上げられるようになることを望みたい。

 今回は、紛争の当事国が安保理常任理事国、被害者が白人ということで大きく報道がされたが、チェチェンのグロズヌイ、シリアのアレッポ等でも同様の手口が使われている。国連憲章の趣旨をいまいちど確認し、然るべき国連改革がなされるよう、声を上げたいものである。

―― 国連憲章第一条 ――

 国際連合の目的は、次のとおりである。

 1.国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。

 2.人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。

 3.経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。

 4.これらのこれらの共通の目的の達成に当って諸国の行動を調和するための中心となること。