月刊ライフビジョン | off Duty

少しずつ日常が帰ってくる―

曽野緋暮子

 毎日午後1時過ぎに、LINEが入る。市のコロナ感染者情報だ。見ても仕方がないことだとは思うが、ついつい見てしまう。感染者情報の後に市長からのメッセージがついてくる。最初は読んでいたが、毎回ほぼ同じ内容なので時間の無駄だから付けるなよ!と思って開かない。以前は高齢者の感染者が多かったが、最近は10歳未満、10代の感染者が圧倒的に多い。ワクチン接種をしていないからかな?

 近くの中学校、高校が休校、小学校で学級閉鎖が出ているようだ。最近は両親が働いている家庭が多く、中学生以上は子どもだけでの留守番OKだが、小学生だけでの留守番は危ないので小学校ではできるだけ休校にしないのだと言う。5歳以上の子どものワクチン接種が始まるようだが、何年か後に、この世代に後遺症問題が起きなければと祈るばかりだ。

 2月の中旬、白髪とぼさぼさの髪に我ながら我慢の限界!と思い、恐る恐る美容院に出かけた。美容院への道すがら、飲食店にはまん延防止による休業の貼紙が多く見られた。昨年までは時短営業の貼紙が多かったようだが飲食店も限界が近づいたのか、昼間でも扉が閉まっている店が多いので何となく気持ちも沈む。

 美容院では美容師に、最短時間で済むようにお願いした。先客が一人、この美容院で今まで聞いたことのないような大きな声で美容師とお喋りをしていた。もちろんマスク装備してだけど。まあ、今はお喋りすることもストレス解消なのだろうと思うと、ちょっと迷惑だけれど許せるか(笑)。私は髪をカラーリングとカットしただけでストレス解消だ。

 再開の目途が立たない「山歩き」にいよいよ辛抱できなくなり、先日、LINEグループを組んでいる仲間3人で「こっそり日帰り山行」の話がまとまった。集合場所は3人それぞれの自宅からちょっと離れた場所に設定。それぞれが車で集まり1台に乗り合わせて出発。有難いことに最近はフリースやゴアテックス、スニーカーもどきが日常着として定着しているので、大きなザック、ストックさえ見えなければ自粛警察に刺されない。車内ではもちろんマスク。消毒スプレーも持参。

 島に渡る橋からキラキラした海が見え、その向こうに目的の山が見えると久しぶりの開放感でワクワク。登山口駐車場には数台の車が―。やはり同じ思いの人達がいるのだ。山道ですれ違う時、以前のように大きな声で「こんにちは!」とは言わず、ちょっと離れてうつむき加減の小声で「こんにちは」とあいさつを交わす。木々に囲まれ、落ち葉を踏みしめ、山陰に残っている雪を見てスマホカメラのシャッターを切る。「今年こそは○○に行きたいね。今年行けなかったらもう体力的に無理になるかもね~。」とたわいない話が弾む。山頂に着くと2-3人のグループがそれぞれ離れてお弁当を開いている。春の日差しの下で海を眺めながらのお弁当、「良いなあ!!!」コロナ感染潜伏期間の2週間が過ぎた頃また行こうねと、楽しい気分を携えて帰宅した。

 しかし、その気分は帰宅と同時に吹っ飛んだ。ご近所の長老が亡くなられ当家から「家族葬だけど香料は受け付ける。」との連絡が回って来た。私達の住む田舎でも5-6年前から葬儀は家族葬となり、香料も受け取らないがフツーになっていたのでびっくりだ。おまけにコロナで葬儀列席には特に神経を尖らせる昨今、困ったことを言い出されたものだ。10数年前まで地区のまとめ役として力を振るった方なので、家族としては参列者のいない葬儀は残念な気持ちなのだろう。でも、日々感染者が出ているこの時期に皆を迷わせるなぁと考えてしまう。近所の友人と相談して、葬儀場にはいかないで当家にひっそりと香料を届けることにした。コロナがなければ盛大な葬儀が執り行われたのだろう。長老もある意味でコロナの犠牲者なのかも知れない。