月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

持続可能な自動車開発について

音無 祐作

 トヨタのショールーム、メガウェブはクラシックカーの博物館も併設されており、メーカーや国籍を問わず、様々な車が展示されています。かつてはレーシングカートをはじめ、車にまつわるアトラクションもいくつかあり、車好きにとってはちょっとした聖地と呼べるような場所でした。

 昨年末をもって閉館したそのメガウェブでの最後のビッグイベントといえるような発表会が、12月14日に開催されました。発表会では5台の電気自動車の前に立ったモリゾウこと豊田章男社長が、翼のように手を広げるとベールが落とされ、さらに11台の電気自動車があらわれるという演出で、その姿はロールプレイングゲームにおけるラスボスの登場のようだと、ネットでは騒がれもしたようです。

 トヨタというメーカーは、内燃機関を活用したハイブリッド車にこだわっており、脱炭素の取り組みにおいていま一つ踏み込めていないと、欧米からは冷たい評価を受けていましたが、この発表会では、近い将来の計画として30車種の電気自動車を展開する準備が整っていることが明らかにされ、欧米のカーメーカーにとっては、まさにラスボス感を覚える衝撃だったのではないでしょうか。

 そもそも、エンジン発電機を積んだ電気自動車に近い存在であるプラグインハイブリッド車や、水素で発電をしながら走る電気自動車といえる燃料電池車を擁するトヨタに、バッテリーだけで走る電気自動車の開発が難しい道理はありません。

 ハイブリッドカーを3年に一度買い替えている人の話を聞きました。もちろん、それらの車は中古車市場に流れ、また新たなオーナーのもと使用されることでしょう。経済の上では有益なのかもしれませんが、はたしてそれは「エコ」なのでしょうか。

 大量消費時代の中で、日本車は10年10万キロが寿命などと言われたりもしますが、BS朝日のテレビ番組「昭和のクルマといつまでも」を見ていると、若い頃に買った車を大切に乗り続け、半世紀以上経ってもまだまだ現役で走らせている方々が多く紹介されて感動すら覚えます。

 例年開催される車の祭典オートサロンでは、自動車技術を学ぶ学生や、ベンチャー企業から、旧いクルマにモーターを積んだ改造電気自動車が展示されるのをよく見ます。

 自動車には、再利用できない素材も多く使用されており、二酸化炭素の排出や化石燃料の事だけでなくそうした素材を使い続けることも、持続可能性を考えるうえで大切な事の筈です。実際に、日本や中国の町工場でも、古くなったエンジンを外して、モーターやバッテリーを積み、電動自動車へと改造するビジネスを行うところがあると聞いたことがありますし、欧米ではコンバートEVと呼ばれるひとつの文化として拡がりをみせているようです。

 経済の持続のためには、新しい自動車の開発、販売も大切ですが、1台の車を長く使えるようレストア(=restore)したり、環境を考えた改造を施したり、安全運転支援装置を後付けしたりといった活動を支援することも、私たちが暮らす環境の持続可能性を考えるうえで、大切な開発目標といえるのではないでしょうか。