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国への将来投資の必要性と許容性・考

渡邊隆之

 今回の衆議院議員選挙の選挙戦直前に、財務省の現役事務次官矢野康治氏が文藝春秋に寄稿した内容が問題になった。バラマキ政治では、国家財政が破綻するとの内容である。与野党からも選挙妨害だとの意見が出たものの、地上波ではあまり取り上げられなかった気がする。

 財務省設置法3条1項には「財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。」とある。矢野次官としては、すでに国債の額が膨らんでいる以上、無計画な財政支出は将来に禍根を残すとの考えからなのだろう。確かに単年度での税収ですべての行政サービスを賄えるならそれに越したことはない。しかし、長引くデフレや今回のコロナ禍で国民の生活や命が脅かされている緊急事態である。過度に「健全な財政の確保」を強調し緊縮財政を行うならば国民の生活は困窮し、国のインフラも傷んでしまう。

 そこで今回各政党で叫ばれていた積極財政の登場となるが、何に(誰に)どのような形でどのくらいの投資をするのか、定点観測と結果を踏まえての仮説修正が大切である。

 特に、食糧需給率の引き上げ・エネルギーの確保・地域の公共インフラ・子供の教育の機会の確保等国民の命や国家の安全保障に関する投資は大胆に投資すべきだが、財政出動の額が増える以上、今まで以上に効果的な支出がなされているかの検証が必要と考える。

 東京五輪で当初予算に対しかなり費用が膨らんだのは記憶に新しい。また、「緊縮財政」の下でも、「規制緩和」の名の下諮問会議の参加者の属する一部の企業が恩恵を受けていたり、「自由貿易」の名の下、食糧や水道等外資の参入が可能になり安全保障との兼ね合いで問題が生じていたりする場合もあったからである。

 一時的に国債の発行で難局を乗り切ることはやむを得ないとしても、多くの国民が多くの恩恵を受けられるような政策を政府には期待したいし、注視したい。国会が審議の場でなく、多数決にモノを言わせた採決の場に変容しており、国益や国民の生活に影響のある事柄は事実上閣議決定で決まってしまっている。マスコミの方々には国民の知る権利に奉仕すべく、閣議決定の内容についてもスポットを当ててほしいところである。

 筆者としては、大企業の法人税が上がり節税対策のため企業が設備投資に充てたり従業員の給料を上げたりすれば消費が喚起されるし、消費税率が下がればより消費が喚起されて国の税収も増えると思うのだがどうであろうか。金融所得課税強化の話が出ているが、それによらずとも、法人税が上がり、黒字企業の余剰金が減れば配当性向も下がるので国民が稼いだお金を外国人投資家にただ献上するということもなくなる。国民民主党の主張にもあるが、フリーランスが増えた今、売上1000万円未満の消費税免税事業者を半ば課税事業者に誘導させるインボイス制度の凍結もあると、中小零細事業者が生き残れ国の税収も上がるのではないか。

 また、税収額ばかり取り上げられるが、税の使い道についてのチェックとしては、憲法に明記された独立行政委員会である「会計検査院」に頑張っていただき、国民に有益な判断材料を提供していただきたい。幸いわが国では民主主義が採用されているので、ダメな政策については1票を投じて政策転換を促せるというメリットがある。今後参議院選挙もあるので、国民の生活や国のために必要な投資がなされているか注視していきたいところである。