月刊ライフビジョン | 地域を生きる

公共施設再編は、こうやって進めましょう

薗田碩哉
~審議会・委員会の活用法を教えます~

 公共施設の再編というのは5,6年前から全国的にかまびすしく言われるようになったテーマである。これからの日本は人口も減るし経済も縮小を免れない。高度成長期以来、好き勝手に作って来た公共施設がそろそろ補修の時期にもなる。今ある施設を見直し、できるなら廃止したり統合したりして数を減らし財政負担を軽減しなければお国も自治体も持たない――総務省辺りが旗振りを務め、各自治体が次々と再編計画に手を染めることになった。全国に先駆けて市の財務を企業会計にしたのが自慢のわが町田市長が再編計画に飛びつかないはずがない。とは言え、再編という言葉は妙に響きがいいが、市民から見れば行政サービスの削減に外ならないから、歓迎される施策ではない。始めるにしてもどこから手をつけるか――町のお偉方は近ごろ流行りのコンサルタントを呼んで知恵を借りた。コンサルがささやいた(らしい)。まずは図書館辺りから減らせば抵抗が少ないのでは…。

 再編の本命は実は学校施設である。どこの町でも一番たくさんある公共施設は学校で、東京郊外の町々はみな、人口増大に合わせて次々と小・中学校を作ってきた。その施設がどんどん古びて行くばかりか、耐震基準もより厳格になっている。他方で子どもの数は激減し、1学年1クラスの過疎地みたいな学校も現れ始めた。比較的小さな学校はいくつかまとめてしまえば、規模の利益が発揮されて財政的には楽になる――しかし市民(父母)の側から見れば、身近な学校がバスでなければ行かれないような遠くに移ってしまい、せっかく少なくなっていいと思った1クラスの生徒数も増えそうだ、大規模校は荒れるというのは常識になっている…。コミュニティの核である「私たちの学校」を守りたい。市の再編計画は大反対! 見直しを求めて議会に請願を…という騒然たる展開にならないように、「再編」についての市民の理解を広げる必要がある。

 わが町田市で市民を再編慣れに導く名誉ある練習台?に選ばれたのは市立図書館だった。43万人の町に現在やっと8館、さらに増やしていくはずだった計画は突如として回れ右、まずは古びた2館を廃止するという方針が行政トップの頭に浮かんだのだろう。常日頃本を読む人は少ないし(お役所の偉いさんを見回してもあんまりいないようだ)、読書人はみな穏やかな紳士淑女ばかりだから、図書館が減って遠くなっても、運動する時間が増えるぐらいに受け止めてくれるだろう。大多数の市民は関心がなく、ほとんど気にもせずやり過ごすだろう…。

 とは言え、市長が「図書館を減らすぞ!」とのたまい「へええ、御意」とか言って受け入れるのは市長の取り巻きとオトモダチの偉いさんばかりである。図書館の職員はもちろん、市民生活の土台となる文化装置を簡単には無くせないと思っている市民は決して少なくない。彼らを黙らせて図書館削減を市の方針として確立するにはそれなりの手続きがいる。市民が参加している関連の審議会や委員会の意見も徴さなくてはならない。図書館に関しては「図書館協議会」という委員会があって、図書館の運営にかかる事項は何によらず論議を尽くすことになっているが、この協議会は図書館のためなら命を張っても、という熱心党の牙城だから、図書館削減計画などまかり間違っても通るはずがない。そこで教育委員会の偉いさんたちは一計を案じた。協議会よりはもう少しのんびりしていると思われる「生涯学習審議会」に諮問を出したのである。生涯学習として公共施設の再編方針をどう受け止め、どう進めればいいのか。図書館についてはどのように取り組めばいいのか。審議会に対しては陰に陽に、再編計画やむなしとする方向で答申を書いてほしいという働きかけを行った。

 ところが生涯学習審議会は抵抗した。市の諸施設の再編を検討するのはやむなしとしても、何でもかんでも再編すればいいというものではない。そこには市民生活の視点からする仕分けがなくてはならない。「従来から生涯学習資源として蓄積してきた図書館をはじめ博物館、美術館、文学館、資料館などの知のインフラを維持管理する」ことが生涯学習の振興のために欠かせない――何度も活発な議論を積み上げて、この結論を答申とした委員はみな、文化や学習の価値を大事に考える人たちだったし(生涯学習委員なんだから当然だが)、おまけに折り悪しくというか折りよくと言うか、筆者が答申の起草委員だったという事情もあった。

 目論見が外れた教育長は、メンバーが入れ替わった次期の審議会に再び施設再編に関する諮問を出したが、それは「再編計画自体は既定の路線だから、それについては論議無用、再編に当たってはどんな『留意点』があるかを考えていただきたい」という問題設定だった。人に物事を相談(諮問)するにあたって「私はもう決めているので意見は要らないが、何か注意することある?」と言っているようなもので、審議会を馬鹿にするのもほどがあるというものだ。肝心の「今後の図書館のあり方」や「再編の必要性と方向性」については、注意深く諮問事項から外しておいて、後でそれについても議論をしたように装うという詐欺まがいの手法が使われたのである。

 図書館協議会を無視し、図書館再編については生涯学習審議会で議論を行いましたという「実績」を踏まえて、行政側は「アクションプラン」を作成して発表した。この実行計画には、2つの図書館の廃止がかっちりと書き込まれている。しかし、このアクションプランはいったい誰がどういう論議を経て作ったのかは明らかにされていない。生涯学習審で論議をして市民や有識者のご意見を十分に伺ったので、あとは行政のしかるべき担当者が粛々と作成し、着実に実行して参りますというのが行政側のスタンスということになる。

 それでは、その行政の担当者は誰なのか、どんな議論を踏まえて計画が成ったのか、せめてそれを知りたいと思うのは、図書館関係者の当然の要求である。そこで市民代表はアクションプランの策定経緯がわかる会議録等の開示を求めたのだが、そのお答えは「文書は存在しない」という呆れたものだった。ご冗談でしょう。こんな大切なことを決めるのに議案書も議事録もないんですか? いつもは大したことのない会議でも、部長の挨拶から議案の説明まで、ご丁寧な原稿ができていて、それぞれのメンバーはそれを読み上げるだけというお役所会議をさんざん見てきた市民とすれば、「文書不存在」は逆立ちしても信じられない荒唐無稽の説明である。「該当する文書はありません、見つかりません」というのは誰ぞの内閣の常套手段かと思ったら、それは各地の自治体にまで着実に学習されているのである。納得できない市民たちは教育委員会に公開質問状を投げつけ、事の顛末を議員や市民団体や地域マスコミに知ってもらう活動を続け、行政不服審査に訴えようという声も出ている。

 そんな矢先、町田の教育を巡る深刻な問題が報道された。小学校6年生の女子生徒がいじめを苦に自殺したという衝撃的なニュースである。この小学校の校長は文科省の「GIGAスクール構想」に熱心に取り組んでいたが、配られたタブレット端末の「チャット機能」によるいじめが原因でみずから幼い命を絶ったという。遺族は、教育委員会の対応に大きな不信感を持っていると報じられていて、われらの「賢い」教育委員会が、この問題をどのように乗り越えて行かれるのか注意深く見守っているところである。【地域に生きる 2021年10月】


【地域のスナップ】合歓の木のブランコ

 合歓の里のシンボルである合歓の木にブランコを作った。子どもたちは喜んで乗っている。私も久しぶりにブランコで揺れてみた。大きく枝がしなって合歓の木がいささか迷惑そうだ。木々の梢から覗く青空も白い雲もゆったりと揺れている。頬を打つ風が心地よい。


◆ 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。