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地域経済活性化について想うこと

渡邊隆之

 菅政権のもとにおいては、地方銀行の再編、中小企業の経営基盤強化・生産性の向上が叫ばれている。少子高齢化に伴い地方の過疎化も進み、新型コロナがさらに追い打ちをかけている状況にはある。地域活性化にはあたかも必要な策にも聞こえるのだが、本当にそうだろうか。

 まず、地方銀行の再編についてであるが、利用者からすれば馴染みの金融機関が近くにあったほうがいい。いくらネット決済が進んでも、困ったときの対面相談窓口は有難いものである。銀行が多すぎて困ることはなく、むしろ競争により、よりよいサービスを提供してもらえるのではないか。

 確かに、赤字の地方銀行が多いなら経営統合して、経営資源を有効活用した方がいいとの考えもあるかもしれない。しかし、赤字の銀行を束ねたからと言って銀行の経営が飛躍的に改善するのだろうか。また、経営統合にはリストラが伴う。失業者が増えるし、専門知識をもった従業員が外部に流出すれば、利用者側にもメリットはない。

 思うに、赤字の地方銀行が増えたのは、低い金利に加え長引くデフレにより資金需要が減っているからである。地方銀行の再編をする前に、まずは政府がデフレ脱却のための財政出動することのほうが先なのではないか。

 次に、中小企業の経営基盤強化・生産性の向上という点であるが、菅政権が主に主張するのは、中小企業の規模拡大であり、ある意味、中小企業の淘汰を意味する。しかし、日本の企業のうち99.7%が中小零細企業であり、実に全従業員の68.8%を抱えている。中小企業数の半減が目標のようだが、地方経済のインフラに大きな影響を与えることを考えると、数が減ればいいという話でもない。中小企業からすれば、利益を上げにくいのは、長引くデフレによる消費マインドの低下、原材料の高騰や消費税増税分を価格に十分に転嫁できない点にある。筆者には規模の拡大が地域活性化に直結するとは思えない。むしろ、巨額黒字の大企業が法人税を納めなくてもよい法制にもっとメスを入れ、地方企業を支援する補助金やノウハウ提供に努めた方が、より地域活性化につながるのではないか。

 菅政権のこれらの主張の背後には、政府の「成長戦略会議」議員であるデービッド・アトキンソン氏の影響があると思われる。彼は強欲資本主義で有名なゴールドマンサックス(以下GSと略)の元トップアナリストだが、日本人の経営意識とは異なり株主利益を重視する。もちろん、企業利益を上げるための工夫は大事である。しかし日本人の感覚としては株主の利益のみならず、従業員、消費者、取引関係者等、多くの利害関係者に富が程よく分配されるほうが好まれる。調和のとれた富の分配のほうが長期にわたる地域活性化につながり、持続可能性な社会(SDGs)の観点からも妥当なのではないか。

 菅政権が中小企業の規模拡大を謳うのは、むしろ外資によるM&A促進の前処理となり、かえって地域が荒廃すると危惧する方もいる。

 ちなみに、5月19日に改正銀行法等金融関連法案が可決された。改正法では、外国銀行が日本に支店を作りやすくなった。また、銀行が地域経済に寄与する非上場企業への議決権・100%出資が可能となっている。上場企業の株式については、改正外為法により、外資の乗っ取りに対し国が目を光らせているが、非上場の中小企業に対しては監視対象外にある。コロナ禍にあえぐ非上場の優良企業が100%出資を受けた場合、後に債務株式化(DES)により、外資金融機関が経営権を掌握し、リストラしたうえで企業を他に高く売り飛ばすという事態も想定される。

 前述のGSはすでに7月7日に銀行業の営業免許を取得し、東京に支店を設けている。危惧される部分についての改正法の施行は11月のようであるが、日本企業も外資の食い物にされないよう注視していきたいところである。