月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

どうせてっぺんを目指すなら

音無祐作

 人づてに聞いた話の一つに、こんなのがありました。

 海外から赴任してきている同僚に、「今度の週末山登りにでも行こう」と気楽に声をかけたところ、同僚は「山登り」であればと、山岳用品専門店に行ってフル装備を整えようとしたとか…。誘った方は、ちょっとしたハイキングくらいの気だったのでしょうが、誘われた方は、せっかくの日本なのだからきっと、富士山にでも誘われたと思ったのでしょうか。聞けばその同僚の出身地は、少し足を延ばせば、数千メートル級の山岳があるような地域で、「山登り」と言われたら、本格的な登山を意味するとのことでした。

 近年、S.U.V.と呼ばれるジャンルの車が人気となっています。もともとは山岳の未舗装路を自在に走行できる性能を持った、主に四輪駆動の車を指す言葉だったのですが、最近は変化してきています。そもそも都市生活者には、身近に未舗装路などあまり存在しなくなりましたし、いくら高性能な四輪駆動車といえども山岳の未舗装路を走破するにはそれなりの運転技能も求められます。形には憧れるもののオフロード性能は要らないというユーザーが多いためか、最近は二輪駆動に溝の浅いオンロードタイヤを装着し、最低地上高以外にオフロード走行に適したところがほとんどないようなタイプが増えてきています。多くのユーザーにとって、S.U.V.は、山登り用の車ではなくなっているようです。

 残念な使い方と言えば、スーパーコンピューター富岳によるシミュレーション結果の報道があります。例を挙げると、マスクの材質や形状による飛沫の飛び方だとか、テーブルに座った人たちの飛沫の飛び方だとか、なにもシミュレーションなどしなくても、「ためして、なんとか」などの情報番組で、なんとかボーイが実験をすればもっと確かなデータが得られそうな気もします。そうかと思えば、国立競技場に1万人を入れて感染者数がどうなるかのシミュレーションなど、前提条件次第でいかようにも結果が左右されそうな気がしてしまいます。

 いまや量子コンピューターとやらの、スパコンを遥かに凌駕するような装置もうまれてきているそうですし、いっそ、蝶がはばたけば地球の裏側で嵐が起こったり、どこかの山のてっぺんで焚火をしたら、地球の温度が2度下がるなどといった、稀有壮大な夢でも見てみたいものです。それこそ、前提条件の設定や計算が狂ったときは恐ろしいことが起きるかもしれませんが…

 シミュレーションというのは、条件の設定や計算過程など、ソフトの部分が重要なのであり、優れたコンピューターがあればなんでも実現できるというものではないそうですが、せっかくの世界一の性能、日本の最高峰富士の名を冠する装置にふさわしい課題を設定して、私たちに雄大な夢を見させていただきたいと、願う次第です。