月刊ライフビジョン | 社労士の目から

雇用関係助成金が花盛り

石山浩一

 現在の雇用に関する助成金が22種類あり、コースでカウントすると67である。その内訳は歴史も長く代表的な雇用調整助成金をはじめ再就職支援関係が5コース、雇入れ関係が14コース、障碍者の雇用環境整備関係が10コース、雇用環境の整備調整関係が19コース、仕事と家庭の両立支援関係が6コース、キャリアーアップ・人材育成関係が13コースの合計で67コースとなっている。

 これらの助成金の財源は、主に雇用保険2事業として事業主が拠出する雇用保険料、一部が障碍者雇用納付金で賄われる。日本の経済に回復の兆しがあり雇用情勢の改善によって、雇用保険積立金が過去最高の4兆円となったことからの大盤振る舞いのようである。

現在の雇用問題に直結する制度の創設を

 雇用保険の積立金が16年末で過去最高の6兆円に達したことから、今年度より3年間労使折半で負担する保険料が0.8%から0.6%に引き下げられ過去最低の料率となる。積立金のこれまでの最低額が2003年の4,063億円なので、約15倍である。失業者の減少による求職者給付の減少に加え、就業者の増加によって雇用保険料納付の増加によるものである。このことは日本経済にとって喜ばしいことであるが、雇用保険積立金は労働者のセーフティーネットでありその使途は慎重に考えるべきである。

 かつての失業保険法は労働者が失業した場合に失業保険金を支給し、生活の安定を図ることを目的として1947年に作られた。高度経済成長が続いた1970年代(昭和40年代後半)は、失業する人が少なく失業保険積立額が増加していった。しかし、1973年ごろに経済成長が終わりに近づき、操業を縮小する企業が増加していった。こうした状況下で失業者を最小限にするため、失業保険の積立金を活用して失業を予防する目的で失業保険法を雇用保険法に改正し、1975年に雇用保険法が施行された。これまでの失業者への給付と並行して、操業休止などに伴う一時帰休者への給付を目的に雇用調整助成金制度を導入したのである。そのため景気悪化に伴い操業縮小が行われたが失業者を最小限にとどめ、多くの企業は労働者を解雇せず、業績悪化を凌ぐことができたのである。

 雇用助成金の不正受給事件も多発していることや、人手不足という環境を考えたときこれだけ多くの助成金制度が必要か検討すべきである。解消すべきは現在問題となっている非正規雇用労働者問題であり、こうした課題解決に積立金を活用すべきである。

雇用保険積立金はハローワーク強化のために活用を

 雇用に関する数字は下記のとおりである。

  平成
15年
平成
17年
平成
19年
平成
21年
平成
23年
平成
25年
平成
26年
平成
27年
平成
28年
完全失業率 5.3 4.4 3.9 5.1 4.6 4.0 3.6 3.4 3.1
有効求人倍率 0.64 0.95 1.04 0.47 0.65 0.93 1.09 1.20 1.36

 完全失業率及び有効求人倍率ともに過去15年間で最も良い数字となっている。特に完全失業率は今年の2月から4月は2.8%と、25年ぶりの低い数字となっている。有効求人倍率の数字からはみれば求職者が会社(職場)を選ぶ雇用環境であり、再就職支援調整助成金(再就職支援・早期雇入れ支援・人材育成支援・移動人材育成・中途採用拡大)、雇入れ関係助成金(生涯現役・3年以内既卒者等採用定着)、トライアル雇用助成金(一般トライアル・障碍者トライアル・障碍者短時間トライアル)などは廃止すべきである。

 ただし、障碍者の雇用については「障害者の雇用の促進等に関する法律」で対応し、屋上屋を重ねるような制度も見直すべきである。その他職場環境の整備関係等は会社の経費で行うべきであり、未整備であれば入社希望者はなく会社は立ち行かなくなるだろう。そうした観点から助成金制度は見直しをすべきである。

 現在の雇用形態に関する最大の問題は非正規労働者の割合とブラック企業である。非正規労働者については、労働者派遣は1985年に成立した派遣法が改正を重ねて今日の派遣法となっているが、これを廃案して元の26業種の形にすべきである。同時にハローワークの体制を強化し、ブラック企業からの求人に対するチェック機能を高め、派遣会社のノウハウを取り入れて企業へのサービスを高めることである。6兆円の雇用保険積立金はこうしたハローワークの強化に活用すべきである。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。  http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/