月刊ライフビジョン | 社労士の目から

開幕待つオリンピック競技場界隈のいま

石山浩一

 コロナ禍によるオリンピック開催がかまびすしい。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長の尾身茂氏は「このパンデミックの中で、開催する場合でも規模の最小化が必要」との見方を示していた。そうしたなかで7月23日からの開催がようやく決まった。しかし、コロナの感染拡大によっては無観客や大幅な観客削減の可能性もあり不透明感が漂っている。オリンピック会場は東京を主に約40か所あるが、私が住む江東区にはその4分の1の競技場が点在している。

“夢の島近辺の競技場”

 毎朝近くの辰巳駅前広場では、団地に住んでいる年配の人たち40~50人がラジオ体操を行っている。前方にはリーダーと思しき人はいるが、リーダーがいない時があってもラジオの曲に合わせて体操は続けられている。家から5分くらいの場所で、毎朝の散策はそのラジオ体操の時間に合わせて出かけている。近くに住む小学生の孫が泊まった時、体操に連れ出したことがあった。眠気まなこで体操している人たちをみて、「みんな元気だー」と感心していた。元気だから体操に来ているのだが、その元気を維持しているのが毎朝のラジオ体操ともいえる。

 体操後はさらに10分ほど歩いて海浜公園の運動広場へと向かう。そこには腕立てや腹筋などの運動器具が7種類くらい設置されている。平日の早朝は人影もまばらで、そこで腕立てや腹筋などの運動を行うのが日課となっている。海浜公園にはデスクゴルフやパターゴルフの設備もあるが、現在は塀で囲まれてオリンピック終了まで使用禁止の札が貼ってある。その公園の海岸沿いに、台形を逆さにしたような巨大な建物が建っている。2020東京オリンピックの水泳競技用に建設されたアクアテックセンターと呼ばれるプールである。このプールでは競泳、飛込、アーティステックススイミングが行われるという。そして近くには以前から辰巳国際水泳場があった。しかしこのプールは水深不足で競泳等には使用できずとして、新しいプールが作られたのである。当然2つもあるのは無駄ではという声もあったが、古いプールは水球等に使用されると区長の談話が区報に掲載されていた。

“見違える街の風景”

 かつてはごみ処分場だった夢の島に近い東雲や有明には50階前後のタワーマンションが立ち並ぶ。また辰巳駅の前には築50年ほどの都営辰巳団地が100棟あるが、14階立ての鉄筋アパートに建替え中である。今年のオリンピックには当然間に合わないが、完成後はさらに景観が変わるだろう。

 同時に、ガードレールもなく凸凹だったアスファルト道路もきれいに整備され始めている。陸橋のペンキは昨年開催に合わせて手入れされたが、1年経過して汚れが目立っているので改めて手入れするだろう。これまでなかったシティホテルや大型ショッピングセンターも開業して、華やかな街並みとなっている。

 こうしたタワーマンション等の建設によって人口も増加、江東区南西部の湾岸エリアにある豊洲の人口は12万人だが、8年後には80%増加と江東区は推定している。

“祭りの後始末をどうするか”

 オリンピックによって建設された多くの建物は、オリンピック終了後にどう活用するかが課題となる。整備された道路や公園は市民の生活に必要なものであり、ある程度のランニングコストは利便性の代償として考えられる。しかし、日常生活に直結しない施設の維持管理を区民の税金で賄うとなるとどうだろう。建物の建設費は国かオリンピック会計から支払われるだろうが、その後のランニングコストを誰が負担するかが問題になる。

 劇場などの文化施設でも維持管理費を捻出するための稼働率を高めることが大事である。そうした観点から今回のオリンピック施設が、単なるレガシーとならないようにすることが求められることになる。しかし、こうしたバランスシートをどう考えているかの議論があまり見えてこない。

 オリンピックが開催される街に住んでいるが、幟やポスターもあまり見かけず熱気も感じられない。地元の小学校では、アフリカ等のあまり知らない国の手旗をつくるように言われているとのことだった。コロナ禍での開催であり、子供たちには選手たちに近づかないで欲しいというのが親心ではないだろうか。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/