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コロナ焦土でオリンピックの夢に酔えるか?

司 高志

 この原稿が公開される7月1日には、オリンピック開催の方向で進んでいることだろう。これは菅総理の大バクチである。それは、どういう意味か?

 オリンピックの具体的なうまみは利権に群がることだが、筆者はこれを副次的な効果とみる。総理の真の狙いは、オリンピックが開催されてしまえば、国民はその熱気で政治のことはコロッと忘れてしまうという読みで、オリンピックを強行開催することだ。

 この読み筋は見え透いているが、おそらく読みとしては正しく、世間はその方向に流れる、と筆者は推測している。残念なことだ。

 与党の腹のうちを読んでみると、次のようになる。①どうせ投票に行っても世の中は変わらないと思い、投票しなければ我々の勝ち。②野党も与党もだめだが、ダメさ加減の少ないほうをと与党に投票してくれれば、我々の勝ち。③世のお祭り気分に浮かれて、投票に行かなければ我々の勝ち。政治に目が向かなければ我々の勝ち…とも言い換えられる。

 上記の3つを上手に使い、徐々に政治から興味がなくなるように日々活動しているのが、与党の作戦である。これを意識的に、もしくは無意識的に使いながら、総理は自分は危機管理が得意だと大きな思い違いをしたうえで、コロナ対策を行っている。

 コロナに限らず多くの場合、このあたりが一番起こりそうだと思うところを中心に対策をするが、予測を外れて事態が悪い方向に行った場合でも、被害が重篤に至らないように余剰の対策をしておく。防護を多重化すれば、重複してしまうこともあるし、事態が予測の通りになったら、無駄になる対策もしておくわけである。とにかく、一段上かそれ以上の悪い事態でも総崩れにならないように無駄をしなければならない。

 だが、コロナに対する菅総理の思いはそうではない。無駄になる対策が惜しくて惜しくてしょうがない。対策しておいてその対策が不要になったとき、非常にもったいないことをしたと思うのだろう。

 具体的には、感染者数が増えないと思っているのに緊急事態宣言するのは無駄。増えなかった時のことを考えるともったいない。はじめはこう思っていたはずが、他人に先をこされたので自分で出すようにした。心の底から必要性を信じているわけではないが、人に言われて出した、と言われるのがいやなだけだ。

 また、発症もしていないし、重篤化していない者に対し、二週間の隔離で無駄飯食わせるのも、休業補償も感染が広がらなかった時にもったいないことをしたと思う。菅総理の頭の中には感染が拡大しなかった時の、対策分の損しか頭にない。

 ワクチンも自然に免疫力がつけば、用意する必要はないと思っていたから、何ら対策しなかった。ところが、オリンピックを目前に控えても全く感染者数が減らないので、大慌てでワクチンを用意し始めた。おそらく、感染者数が増加しなければ、ワクチンもスルーする気だったのだろう。尻に火がついたわけだ。

 だが、オリンピックを開催してしまえば、コロナ対策の失敗は、オリンピックに目が向くので全部チャラだ。失敗をなかったことにできる。

 ところで筆者は、どのような状態で開催されたオリンピックであっても、メダルを取れば、それは本人の実績として、そのメダルの価値を有すると思っている。

 たとえば、決勝戦一試合のみで、金と銀が決まっても実績としては金は金、銀は銀だ。3人しか走者がいなくて、3人で走って金銀銅でも、その価値は金銀銅だ。コロナで一人しか参加者がいなくても、金は金だ。どんな記録が残ろうが金メダリストである。これは極端な例ではあるが、勝負は時の運であり、参加者が一人しかいないというのも勝負強さのうちだ。これが勝負事の本質の一部ではないかと思っている。

 さて、オリンピックが開催されれば、連日のオリンピックの報道により、一人で走っても、いきなり決勝戦でもマスコミが大いに盛り上げてくれる。五輪関係者、家族インタビューなどが友達、先生、恩師にまで及び、大盛り上がりだ。こうしておけば、コロナ対策の失敗などフッ飛んでしまう。

 だが、菅総理のコロナ対策はことごとく失敗している実績がある。余剰の対策がもったいないという危機管理に反する思考を持ち合わせているため、コロナは自然に収まるという過小評価しかできない。そこで、オリンピック開催中もしくは終了後に予測をはるかに上回る感染が拡大してしまう、といった事態も起こりうるのだ。こうなってしまうと、総理の予測は大ハズレ、コロナ対策の失敗がクローズアップされてしまう。大バクチに負けた被害は甚大となってしまう。

 総理は、オリンピックの関係者をバブルに包み込むという、バブル方式で、安全安心の呪文を唱えているが、すでにほころびは現実化し、バブルはいつ崩壊してもおかしくない。大バクチに負けた後の日本はコロナで焦土と化す。これが投票行動に結びつくかは、なんとも言えない。