月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

中村哲氏の報道番組から考えた

渡邊隆之

 2019年12月4日、アフガニスタンで医療や灌漑事業に多大な貢献をした中村哲氏が銃弾に倒れた。1周忌を迎えた昨年末、中村氏の業績や、共に事業に関わった方々へのインタビュー、その後の活動についてのドキュメンタリー番組を見た。

 中村氏は1984年パキスタンの都市ペシャワールに赴任し医療支援を開始する。やがてアフガニスタンへ活動を広げ、山岳部無医地区でハンセン病根絶を柱に貧困層対象の診療を行う。

 2000年のアフガニスタンの大干ばつを契機に、砂漠化した大地に川の水を引いて緑地化する用水路事業を始めた。重機を操縦。土木の知識も独学で、日本の伝統的な治水技術を用いて、砂漠化した大地を緑化した。65万人が帰農し、飢餓に苦しむ人々を助けた。

 2001年10月13日第153回衆院特別委員会に、アメリカの軍事報復の後方支援をする法案を審議するため参考人招致された中村氏は、飢餓で苦しむ現地の状況を訴え、中東への自衛隊派遣は有害無益、現地の実情を踏まえて対策を講ずるべきだと主張した。自民党議員からヤジや発言取り消し要求もあったが、現地住民の視線で堂々たる発言を続けた。

 今年は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロが起きてから20年になる。新型コロナの感染拡大が世界政治の混乱に拍車をかけている。とりわけ米ロの覇権をめぐる争いの中で、国や私たちが果たすべきことは何だろうか。

 日本は人道大国としての存在感をより大きくすべきではないか。周辺で軍事的緊張が生じたとして、日本国憲法第9条の改正論議もある。しかし、軍事的報復の連鎖がもたらすのは、所詮殺戮と破壊に過ぎない。

 敵を作るのではなく、敵を減らすことが大事なのではないか。発想を転換して、憲法第9条の軍事面での制約を逆に活用して、敵を減らし仲間を増やす戦略に転ずるべきだ。軍事力に頼らず人権尊重に立脚した外交的対話で、理性による解決をめざしてもらいたい。一人の精神科医が疾病治療から出発して、その原因を解決するための緑化事業に命を懸けられたことを学んで、国家的意志を平和構築に向けた活動にしてほしい。

 私は周囲の事情にもっと関心を持ちたい。他者の生活に思いをめぐらせることは、自分の生活を守ることでもあるはずだ。ささやかだが、私も仕事でさまざまの相談にあずかるとき、自分に何ができるか、心を込めて対応するつもりでいる。