月刊ライフビジョン | 地域を生きる

いまどきの中学校を訪ねる

薗田碩哉

 市の「学校評価第三者委員会」なるものの委員を仰せつかった。昔の視学官の地域版みたいなものらしい。ご同役は弁護士、産業医、教育学者のお三方。小生の位置づけは社会教育の専門家ということになるようだ(社会教育委員を長いことやって市長さんから表彰状ももらっているのです)。まずは現場を見に行きましょうということで、晩秋の一日、市立のある中学校を訪れた。高齢化著しい公団の大団地に隣接する閑静な場所にある。最寄り駅からの交通はバスのみで、20分以上かかる。向かいには高等学校、その横には小学校、地域で小中高の一貫教育もできるという文教地区である。

 校長先生のご案内で校舎と授業を見て回る。第1印象はみな背が高いということ。小生より大きい生徒の方が多い感じで、日本人の体格はほんの半世紀で欧米並みになったと感心する。男女とも制服をきちんと着こなし、生意気にネクタイまで締めている。廊下ですれ違えばちゃんとあいさつをしてくれる。お行儀はよろしい。

 授業はみな平穏に行われているという印象を受けた。枠から外れた生徒はあんまりいないように見受けられる。昔の中学校はもう少し騒がしかったように思うし、明らかに埒外の生徒がいて不貞腐れていたりしたものだが、そういう「とっぽい」奴は見かけない(因みにとっぽいとは「気障で不良じみている」という意味の俗語)。休み時間に話しかけてみるとどの生徒もしっかり応える。表情も豊かで好印象を持った。

 授業は昔とはずいぶん変わっている。黒板の中央部に電子ボードが貼りつけてあり、ここに図表やら写真やらを表示する方式で、数学でも英語でもこのスタイルである。教師が自分で黒板(ホワイトボードというべきか)に文字を書く必要がない。実際ほとんどお書きにならない。冒頭から電子ボードに課題が映し出され、教師はタイマーをセットしてワークをやらせる。生徒は黙々とそれをやる。その先は、ボードに次々と出てくる映像資料を教師が解説して行くという感じ。これならオンラインで自宅で勉強してもあんまり変わらないように思う。期せずしてコロナ対策ができているのだ。

 いかにもIT時代にふさわしい授業スタイルで、道具立ては便利になっているが、教師と生徒との間に生きたやり取りが乏しい、という感じを受けた。教師は黒板に書きまくり、生徒に問いかけ、生徒はワイワイと意見を言い合う。中にはそっぽを向いているのもいて教師が叱りつける、叱られた方はむくれて反抗する―そんな一時代前の授業が懐かしく思われるほど、波風の立たない授業なのである。

 英語の授業も、用意された画面が展開し、ネイティブ英語の音声を聴くことが中心で、教師は単なるオペレーターという役回り。教師と生徒、あるいは生徒同士の英語の掛け合いも用意されてはいるが、画面の指示通りやってみましたというだけ。画面を止めて、教師がナマで英語を使って問いかけ、生徒も文法は間違ってもともかく英語で答えてみるというような生きた授業になっていない。その点、職業科でやっていた箱作りや校庭の畑のイモ洗いなどは、身体を使った実体験なので手ごたえがあり、生徒たちも嬉々として参加している。教師もこういう場面ならそれなりに存在感がある。

 廊下に貼ってあった壁新聞の「職業ガイド」が目に留まった。実にさまざまな職業が紹介されていて、いかにも今風のイラストが面白い。村上龍の『13歳のハローワーク』という本を思い出した。今の子どもたちの絵のうまさには感心する。その分、多分、活字にのめり込んだり、長い文章を書いたりすることは苦手なんだろうな、という気がする。

 そこで図書室を見せてもらう。広々とした明るい部屋で、書架には子どもっぽい本から大人の文学、SDGs問題まで幅広く並んでいる。子ども図書館と成人向け図書館が合併した感じだ。中学生期は子どもから大人への転換期だから当然だろう。しかし、誰一人生徒は来ていない。司書役の高年のご婦人がいろいろ解説してくれる(有償ボランティアだそうだ)。図書室に来るのは一部の本好きな子が中心で、そんなに多くないという。「すすんで読書をする」というのは「あいさつをきちんとする」と並んで、この学校の教育目標の1つになっているが、あいさつはできても読書の方はいささか心もとない感じだ。

 この時間、ついでに保健室を覗いてみたら、女子生徒が二人いて保健の先生とおしゃべりしていたが、図書室にエスケープしてくる生徒も一人や二人いてもいいと思った。

 上辺をさらっと見ただけだが、いちおう現在の中学校の雰囲気に触れることができた。新年には小学校を見学に行く。新年度から町田市は「コミュニティ・スクール」を全面実施することになっている。Withコロナの時代に地域と学校とがどうかかわっていくのがいいのか、第三者の眼でしっかり見極めたい。

《地域のスナップ》 冬のキャンプで竹細工 

 地域の子どもたち20数名で里山キャンプ冬の陣を行った。町のはずれの野外活動センターに合宿、竹を切って楽器をつくったり、太い孟宗竹の一節を使ってご飯を炊いたり、寒風の中で野外パーティをやったり、コロナも顔負け?の一晩だった。


薗田碩哉(そのだ せきや)

 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。