月刊ライフビジョン | 地域を生きる

地域の魅力空間って何だ!?

薗田碩哉

 町田市の広報紙の1面にでっかい文字が躍っていた。曰く「公共空間を地域の魅力空間に変える」。大きな建物に教室があったりカフェがあったりスポーツジムや図書室が入っているイメージ図が添えてある。ちょっと見ると最近あちこちに出来ているショッピングモールみたいな絵なのだが、これが魅力的な公共施設ということらしい。

  1枚めくった裏ページには、今度は一転して公共施設をめぐる厳しい財政状況が紹介される。今ある施設の6割は築30年を経過、今後はその改修費用が毎年87億円ずつ掛かる計算。他方で40年後には―ずいぶん先の話だが―人口が7万人、15%も減ってしまう。2000年には5人で1人の高齢者を支えていたのが、2030年には2人で1人を支えなければならなくなる―この図解も厚労省あたりが良く出している絵だ。

 ということだから、今ある施設をそのまま維持することは出来なくなります、古いものは捨てて、便利のいいところにある丈夫な施設にあれこれの地域施設を集約し「多機能化」していきますのでよろしく・・・というのが市の意図するところのようだ。広報紙には細かく書いていないが、この方針ですでに施設ごとの見直しが進んでいるらしい。その中には、住宅団地の中にある古くなった小さな図書館や、他の町にはめったにない「文学館」のような施設が含まれているというので、文化や学習を大事に考える市民はこころ穏やかではない。地域の図書館は歩いて行けるご近所にあるから価値があるので、大きくて立派な図書館でもバスに乗ってわざわざ駅前まで行かなくてはならない、というのでは高齢者には辛い。

 「文学館」については、図書館と似たような施設なんだから、中央図書館に合併して事業だけ引き継いでもらえばいいんじゃないの、と政策担当者は考えているらしい。そしてその根拠となるのが利用者数という数字だ。利用者は伸びていない、市民の認知度が低い、という物差しを突きつけられると、文学館支持者もひるんでしまいがちだ。しかし、ご当地に縁の深い詩人や作家たちの資料をそろえ、文芸を中心に独自の情報発信を続けてきた、他の市にめったにない(鎌倉市のは有名だが)施設なのである。同じく町田独自の「自由民権資料館」や「版画美術館」と並ぶ「町田を町田たらしめる」三本柱の一本だ。文化の値打ちを利用人数だけで計ろうという算数至上主義をぶっ倒そう。

 図書館の存在価値についても「最近は貸し出し数が減っている」という指摘がされている。それだけ図書館の存在理由が低下していると財政当局は言いたいのだろうが、図書館に言わせるとその大きな理由は、図書購入費の大幅な減額にあるのだという。新しい本や話題の本を図書館がしっかり揃えることが出来ていない。借りたくても借りる本がない!、勢い貸し出し数が減る、という実情を知ってほしいと担当者は訴える。

 これからはどの自治体でも、人口の減少、財政規模の縮小という錦の御旗を掲げた「公共サービスの値切り」が進んでいくだろう。それに対抗する論理を市民の側も真剣に考えなければならない。安易な民営化に逃げない、行政への市民参加の拡大という方策を、それこそ市民からのボトムアップで打ち出していかなくてはならない。


街のイベント帖28
水のない田植え
 梅雨に入ったとは言え、さっぱり雨が降らない田んぼ。それでも田植えは必須なので、ごらんのような水のない、ドロンコ田植えと相成りました。
 10数年の田んぼ活動で初めての事態でした。この後、みんなで必死の雨乞い踊り、その甲斐あって月末にやっと水が溜まりました。


薗田碩哉(そのだ せきや)
1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。
東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。