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国際連合創設75周年

渡邊隆之

 6月30日に施行された香港国家安全維持法をめぐって中国政府と各国との摩擦が連日報道されている。著しい人権侵害があったり、他国への領土侵害の危険があったりした場合、国際連合が当事国に勧告する。しかし、はたしてどこまで機能し、深刻な事態の回避に役立っているのだろうか。

 国際連合は第二次世界大戦時の連合国である。そのためその名残ともいえる敵国条項が死文化しているとはいえ国連憲章にある。戦勝国となった連合国の主要なメンバー5か国が現在の国際連合の安保理常任理事国になっている。当時連合国と敵対していた国も加盟し、国際連合が国際平和の維持に一定の貢献をしていることは周知の通りである。

 7月18日、グテレス国連事務総長がオンラインで演説をし、「70年以上前に世界の頂点に立った国々が、国際機関の力関係の転換を要する改革を拒んでいる」と述べ、大国が不平等解消に取り組んでいないと異例の発言をした。大国とは安保理5常任理事国が念頭にあると思われる。同氏は、変革が必要な例として、安保理の構成や投票権を指摘し、不平等の解消は国際機関の改革から始めなければならないとした。

 安保理常任理事国には大国の拒否権があり、国際平和維持について機能不全が生じている。特に、米ロについては、大量の武器を他国に供与し両国を背後にする代理戦争も行われてきた。また、大量殺戮のできる核兵器を大量に保有している。最近では中国が南シナ海の領有権をめぐって周辺国と争い、海洋法条約に基づく仲裁裁判所での司法判断を紙屑扱いに評価したり、ウイグル・香港での人権問題で批判を浴びてもいる。

 国連憲章では各国主権の平等を謳うが、ほかに、武力による威嚇の禁止、人権尊重等も謳っている。各国間でそれぞれの主張があり、複雑な歴史的経緯があることはわかる。しかし、一定の事実状態が継続し、市民の平穏な暮らしが一国の思い込みで力により瞬時に現状変更されてしまうのは不都合である。

 各国主権の尊重と人権尊重・国際平和の維持をどう調和させるのか、そのために、国際機関はどう早期に穏やかな形で紛争を決着させるのか、もっと審議が充実するように体制を整えるべきである。

 また、加盟国の主権を尊重して、国際司法裁判所等が「勧告」を出すが、これに当事国が従わない場合の強制力や制裁についても議論が必要である。

 さらに、各組織の審議の公正さを担保するための検討が必要である。例えば、6月30日の第44回国連人権理事会では、香港国家安全維持法の件が議題に上がり、日本をはじめ欧米諸国側27か国(アメリカはすでに脱退)は反対したものの、独裁政権などの多い中東・アフリカなど53か国は賛成の立場を示している。会社法では企業間で一定の資本関係がある場合に議決権行使を制限する規定があるが、国連の各機関についても決議の公正さを担保するためのなんらかの措置が必要であろう。

 香港での騒動について、これも当事国の主権尊重、内政不干渉論だけでは収まらない。歴史的視点も含め、冷静に公正な議論がなされるべきであり、その舞台が国連でなければならない。

 国連憲章に掲げる理念、国際平和の維持や人権尊重のために国連が果たすべき役割は大きい。いま、国連のサイトでは改革のためのアンケートを実施している。是非、読者の皆さまも改革についての意見をぶつけていただきたい。

 国際連合ホームページ https://www.unic.or.jp/info/un/