筆者は、この人のとか、この国のとか、この組織のとかの行動原理を考えることがある。そしてついに日本政府のコロナ対策の行動原理を思いついたがその前に、「あしたのジョー」という漫画の説明が必要だ。この漫画を知る人には、本稿の趣意が大体わかるだろう。
主人公のボクサーは、クロスカウンターという必殺技を得意としている。クロスカウンターとは、フィニッシュに来た相手のパンチに合わせて、自分もカウンターパンチを入れるという必殺技である。相手のきめ技が右ストレートなら左のカウンターパンチ、相手が左のストレートのフィニッシュなら右のカウンターパンチである。ノーガード戦法はクロスカウンターをさらに高度化した技で、顔面をガードせず打たせるだけ打たせて、焦って決めに来た相手に合わせてカウンターを放つという、危険極まりない戦法だ。主人公はパンチドランカーという脳に異常が発生する事態となっているから、よい子のみんなは、まねをしないようにしよう。
我が国現況のコロナ対策はノーガード戦法と同様、コロナ対策をしないという秘策である。しかも、ノーガード戦法であることを国民に気づかれないよう、世にも珍奇な策を講じ、加えて最後にクロスカウンターが出そうにもなく、必殺のカウンターを放つ前に衰弱してゲームセット、ということになりそうなのだ。さて。
この時期に政府は、『Go To トラベル・キャンペーン』と銘打つ奇策を始めた。もはや、コロナウイルス対策においては、正気の沙汰とは思えない非科学・思い付き対策のオンパレードだ。10万円の迷走劇やGo To トラベル・キャンペーンのゴタゴタは、結果として、ノーガード戦法を隠すための高等戦術だったのだ。
東京都においても都知事が警報を出したりひっこめたり、都庁をライトアップしただけで、大したことはしていない。だが、都知事選の結果を見ればわかる通り、意外にもその対策は評価されていることになる。もう少し接戦になるかと思ったがあれほどの大差がつくのだから、仕事やってます感の演出は、これはもう大成功なのだろう。国の施策があまりにもひどいので、警報を出したりひっこめたりしただけの都知事が素晴らしく見えたということか。
加えて選挙民の投票原理は、消去法だったのだろうと推察する。消去法で判断されるのだから、よほどインパクトのある候補者を用意しないと、野党側は勝負にならない。
さて、本題。『Go To トラベル・キャンペーン』は、『Go To トラブル』などと揶揄されているが、筆者には『強盗（Go To)・テロキャンペーン』のように見える。
『Go To トラベル・キャンペーン』は、観光業に対する支援策で、旅行の宿泊代金を補助しようというものである。コロナでお客さんがいないのだから、建物の維持費や光熱費が無残に飛んでいく。何もしなければ、毎日がコロナに強盗されているようなものだ。ではとこの施策に乗ってお客さんを宿泊させると、自爆テロが炸裂することになるだろう。
そもそも、コロナの検査が行われないので、自分が感染者かどうかは無自覚である。検査をしない、このため陽性者は発見されず、したがって陽性者はいない、という大本営発表となる。
無自覚な者の中には、本当は感染していてウイルスをまき散らしているかもしれない者もいるのだが、自分の体調は悪くないので普通に暮らしている。
おおよそ、科学的かつ冷静に判断できる人は、自分には症状は出ていないが、感染者かもしれないということで、マスクをするし、大声で話したりはしていないものだ。
マスクは自分のためではなく、自分が感染者であった場合、他人に感染させないという心遣いだ。手指の消毒も、自分が感染しないためでもあるし、自分のウイルスを他人に移さないための用心でもある。
さて、「バイトテロ」というのは、調子こいたアルバイトが、バイト先の店舗でいたずらをして、無自覚にインターネットにアップしてしまうことをいう。ウイルス感染者もバイトテロのように無自覚に旅行に行って、周りにウイルスをばらまいてしまえば、これはもうバイトテロと同様の破壊力を発揮する。宿泊した施設の名前が公表され、宿泊者や従業員のPCR検査、その後の宿泊がキャンセルの嵐になってしまうのは火を見るよりも明らかだ。
観光業者にとっては、毎日コロナ強盗にあい続けるか、自爆テロの巻き添えになるか、どっちにしても大変なことになる。
『Go To トラベル・キャンペーン』で運悪く、自爆テロに巻き込まれても、対策しなかった方が悪いとして、国は責任を取ってくれないだろう。責任を痛感して業務は引き続き行うという総理がいるのだから、結果は今から想像できる。
それとも本音では、オリンピックをやりたくないから、わざと感染者を広げているのだろうか。いやまさかとは思うが、本当にノーガードでジャンジャン旅行してほしいのかもしれない。みんなが感染すれば一発逆転打、集団免疫を獲得して、これがほんとのクロスカウンターだ。
どの業種も毎日強盗にあうか、自爆テロに巻き込まれるかの瀬戸際にあるから、制度として救済する手法を考える必要がある。しかし、いい知恵が出せる人もいないし、責任をもって実行できるリーダーもいないのが、今の日本の悲劇である。