月刊ライフビジョン | 社労士の目から

改正民法による賃金等の請求期間変更について

石山浩一

 平成29年5月に成立し、同年6月に公布された改正民法(債権法)が4月1日から施行される。実質見直しがされていなった民法が120年ぶりに改正されるのに伴って、改正労働基準法が3月27日に成立し、4月1日に施行される。

“経営者寄りの請求期間延長”

 現在の基準法115条では、「賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」となっている。

 今回の民法改正で、お金をさかのぼって請求できる期間が1年から5年となっている。飲み屋の借金は1年間請求がなかったら払わなくても良かったが、これからは5年間請求がない場合となる。賃金や残業の未払いがあれば5年前までさかのぼって請求できることになるはずである。

 しかし、そうは問屋が卸さないのが労働関係を取り巻く環境である。賃金や残業の未払いをさかのぼって請求できるのは5年ではなく、当面3年となったのである。

 これは賃金台帳やタイムカード等の書類の保管等の負担が大きいという理由から、当面3年となったようである。労働者名簿やタイムカード等の記録保存を義務つけているのが3年間であり、これにあわせた期間となる。実際に3年前にさかのぼって請求できるのは、令和4年(2022)4月1日以降となる。

 これまでの民法では、賃金等の請求権時効は1年だったが、労働者を保護することから労働基準法は賃金等の請求権を2年とし、民法を上回っていた。しかし、今度は民法が5年とした請求権を労働基準法が下回ることになったのである。原則5年としているが、民法を下回るという矛盾を早期に解消すべきである。なお、退職手当は現行5年なので変更はされていない。

“年次有給休暇の時効は2年と変わらず”

 年次有給休暇(年休)の請求期間は、裁判の判例や労働基準局の行政通達で、基準法115条のその他の請求権に含まれるとして2年間となっている。今回の民法改正でも2年間は変わらないことになっている。しかし、年休も債権の一種であり、民法の改正に伴って5年とすべきである。しかし、年休の本来の趣旨は取得することであり、繰越すことは趣旨にそぐわないということのようである。

 年休の取得率は50%弱を推移していることから、半分が時効消滅しているのが現状である。そのため消滅する年次有給休暇を、病気や不慮の事故の際の休暇に使えるようにする積立制度がかなり普及している。今回の新型コロナに関しても、潜伏期間といわれる14日間の休みにも活用できる。

 政府は取得率を高めるため働き方改革の一環として、基準法を改正して会社に5日間の取得義務を課すことになった。しかしその成果はこれからであり、取得率が飛躍的に向上するとは考えられない。こうした現状から積立制度を含めて、請求権延長が年休の趣旨にそぐわないとは思われないのである。債権の一種である未取得の年休が、早く消滅すればすっきりするという会社の趣旨に沿った内容といえよう。


石山浩一 特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/