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バイトテロ予備軍に告ぐ

司 高志

 唐突だが、昨年末はいくつか演奏会に行った。地元楽団の演奏会に行くのが趣味である。

 以前に知人に、チケットが余ったからとクラッシックのコンサートに連れて行ってもらった。ホールも演奏者も指揮者もそれなりに有名であったが、熟睡の不覚を取ってしまった。以来猛省し、メロディーを知っている曲があるのを確認して足を運ぶようにしている。やっぱりミーハーではないかと思われる方に一言しておきたいのは、ミーハーとはそれまで興味がなかったにもかかわらず、にわかに熱中する者を指す。今となっては死語だが一応、定義しておきたい。

 さて、最近の演奏会ではいろいろな顧客サービスを見せてくれるが、その一つ。ソロが始まってしばらくすると指揮者が指揮棒を振らなくなり、指揮台から降りてしまう。それでも演奏者の判断で楽曲が続いていく。よく訓練された楽団員ならこんなのはできても「あ・た・り・ま…」くらいのところにきて、ビ、ビーンとひらめくものがあった。

 ここで楽団を、ファストフード店やコンビニの店に置き換えよう。指揮者は店長やオーナーである。そうすると楽団員は社員ということになる。

 初期のころの店舗は、楽団員はほぼすべてが正社員であっただろう。ところが知恵者が現れて、社員の業務を分解し、誰でもできるようにマニュアル化した一方で、店に並べる商品やお客に提供する料理は、フランチャイズの本部が用意する仕組みを考えた。つまり、誰でも演奏できるような仕掛けを考え、演奏者をプロからアマに置き換えて、演奏会をローコストで催行できるようにした。

 こうして、コンビニやファストフード店の仕事は誰でもできるようになったから、正社員はバイトに置き換わり、最後には正規の社員は店長しか残らなくなった。店長が帰宅し、バイトばかりになると何が起こるかわからない。職場でバカをやる「バイトテロ」の一つ目の素地が出来上がる。

 だが、実際にバイトテロが起きるには、もう一つの要因が必要であった。

 いつの時代もウケを狙ってバカをやる若者は一定の割合で存在すると思う。ただし、現代ではバカをやったその結果を、バカッターやバカスタグラムと揶揄される、インターネット上で簡単に世界に拡散できるツールがたやすく手に入る。こうして自らの愚行をインターネット上で広めてしまうバイトテロリストが後を絶たなくなるわけだ。

 私にはこの「テロリズム」が、正社員を極限まで減らし、よく言うことを聞く従順なバイトしかいないという「働かされる仕組みに対するアンチテーゼ」のように見える。もちろんテロリストになった各々の動機が違うであろうが、こういう流れは、非正規社員比率を極限まで上げ、会社だけが生き残ろうとする現代社会の無法とダブって見え、いずれは大きなしっぺ返しが来ると思っている。その一つが少子化であると思われるのだが、どこかで悪循環ループをやめないと、さらにひどいことが起こりそうな予感がある。

 以上は現代社会の構造上の問題と捉えて書いたのだが、最後にテロリスト予備軍の諸君に一言、申し上げておかねばならない。

 インターネット上でテロを起こすとすぐに素性がばれてしまい、バイトを追われるだけではなく、今後の就職や人生に影響を及ぼしてしまう。当人でなくとも家族なども厳しい目に合うかもしれず、テロリストが勤めていた店でも閉店を余儀なくされたり、被害が出れば、損害賠償請求をしてくる。よいことは全くないのでネットによる自爆テロはやめておいた方がよいと、オジサンは忠告するものである。